本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。
InDesignから書き出すインタラクティブなデータ
InDesign CS5で追加されたインタラクティブな機能
CS5では、インタラクティブな新機能が数多く搭載された。[アニメーション]パネル、[タイミング]パネル、[オブジェクトステート]パネル、[メディア]パネル、[プレビュー]パネルの5つが新しく追加された。これで、既存の[ハイパーリンク]パネル、[ブックマーク]パネル、[ページ効果]パネル、[ボタン]パネルと合わせて、インタラクティブなパネルは、計9つとなった。
[アニメーション]パネルは、オブジェクトに動きを付けるためのパネルで、Flashで作成したような動き(アニメーション)を簡単な操作で加えることが出来る。[タイミング]パネルは、複数のアニメーションを設定した場合の実行順序を指定出来る。もちろん、複数のアニメーションを同時に実行することも可能だ。
[オブジェクトステート]パネルは、SWF*1にパブリッシュ(書き出し)した際に、ユーザー自身の操作によって表示されるアイテムの切り替えが可能になる機能だ。例えば、クリックすることで写真が切り替わるような動作が可能となる。また、[ボタン]パネルと組み合わせることで、マウスを重ねた際のアクションも指定出来る。
[メディア]パネルでは、ビデオ関連の動作を設定出来る。ビデオのプレビューや再生オプションの設定、ビデオコントローラーの選択やナビゲーションポイントの作成、外部メディアへのリンク、さらにはビデオをスクラブ再生してフレームを選択し、プレースホルダーに使用するポスター画像の作成も可能だ。そして、これらインタラクティブな機能を使用した際に、動作を確認するのが[プレビュー]パネルとなる。
これらの機能を使用したドキュメントから、SWFやFLA*2、PDFに書き出すことで、インタラクティブな機能を保持したドキュメントとして活用出来るという流れだ。
インタラクティブな機能は必要か?
このように見ていくと、実に様々な機能が追加されているのが分かる。しかし、これらの機能は印刷物を作成する観点から見れば、はっきり言って必要ない。誤って印刷用のドキュメントに使用されてしまう可能性を考えると、データを受ける印刷会社としては、あまり望ましくない機能強化と言えるかもしれない。では、これらの機能は必要ないのだろうか?
実は、InDesign CS5が出た時には、さほど必要ない機能だと私は考えていた。新規ドキュメントを作成する際にも、ウェブモードが選択出来るようになったこともあり、「いったいAdobeはどこに向かうのか?」とちょっと疑問にも思った。
確かに、SWFを書き出せるのはメリットのひとつだが、それなら初めからFlashを使えばいい。Flashを使えないデザイナーにとっては、ある意味、これらの機能を使えば仕事の幅が広がるとも言えなくもないが、さほど大きなメリットとは感じられなかったのだ。
しかし、iPad用の雑誌『WIRED』を見て考えが変わった。『WIRED』はアメリカの雑誌で、iPad用にもアプリケーションとして作成されている。ムービーやオーディオはもちろん、タップすることでテキストや写真が差し替わったり、横だけでなく縦方向にページをめくったりと、実に様々なインタラクティブな仕掛けが施されている。
この『WIRED』がInDesign CS5で作成されたことを知り、私は考えを大きく変えた。「InDesignにインタラクティブな機能が追加されたのは、このためだったのか」と。
電子書籍への展開
実際には、まだ『WIRED』のようなインタラクティブなアプリケーション(雑誌)を作成するツールは提供されていない(『WIRED』にはAdobeからテスト的にツールが提供されたものと思われる)。Adobe LabsでInDesign CS5からiPad用のアプリケーションを作成するためのツール(ベータ版)が提供される予定となっているが、9月末現在、まだ提供は始まっていない。このツールが出てきたら、とても面白いと思うのだが……。
今後、電子書籍への展開においても、AdobeはInDesignを制作ツールの中心として考えているようだ。InDesignからはEPUBの書き出しも可能だし、さらにiPadアプリを書き出すことも出来るようになれば、ますます重要なツールとなっていく可能性がある。
今後、目指すべきワークフロー
好むと好まざるとにかかわらず、今後は電子書籍への展開が重要となってくるのは間違いない。しかし、将来の電子書籍制作を視野に入れた場合、現状のデータ制作の流れでは色々と問題も多い。まず、RGBワークフローを視野に入れたい。これまでCMYKでの運用が当たり前だったが、今後はRGBで運用するようにしておくのだ。『+DESIGNING』など、既にRGBワークフローを実施している雑誌もある。色域の広いRGBを使用し、印刷と電子書籍やウェブにも対応出来るようにしておくメリットは大きい。
また、ファイル名に日本語を使用しないワークフローも重要だ。ウェブの世界では当たり前のことだが、DTPではリンク画像も含め、日本語のファイル名がよく使用される。日本語を使用していると、電子書籍やウェブに展開した時に問題が起きやすいのだ。さらに言えば、すべてのテキストに対しスタイルも適用しておきたい。こうすることで、他のメディアへの展開がしやすくなるのだ。ウェブの世界でよく言われる「構造化」という観点からも重要だ。皆さんも色々と情報を収集し、今後の新しいメディアへの展開を目指して頂きたい。
*1 SWF(Short Web Format):Flashドキュメントをウェブで使用する際のファイル形式。
*2 FLA:Flashドキュメントのファイル形式。