本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。
電子書籍フォーマットEPUBの作成
大きく2つの流れがある電子書籍
現在、非常に注目を浴びているのが電子書籍だ。毎日のように様々な情報が流れてきており、今後どのように取り組んでいけば良いのか戸惑っている方も多いのではないかと思う。まずは、この電子書籍がどういったものかを考えつつ、今回のテーマであるEPUBについて考察していきたい。
一口に印刷物と言っても、様々なものが存在する。テキスト中心の書籍もあれば、新聞、雑誌、教科書、マンガなど、その目的や用途は様々だ。これらを電子書籍化する場合に、すべてを同じ形式で作成するには無理がある。つまり、それぞれの印刷物の特性に応じて、どういった形式の電子書籍を作成していくかを考える必要があるが、電子書籍は、大きくは2つのタイプに分けることが出来る。
1つがリフロー型と言われるもので、EPUBもこれに属する。デバイス(端末)で表示させた時に、ページに収まりきらない要素は、自動的に次のページに流れるといったタイプのものだ。現在の仕様では、凝ったレイアウトは実現出来ないため、いわゆるテキストが中心となる書籍などで使用される。
もう1つが、アプリケーション型と言われるものだ。現状、リフロー型のものでは縦組みを始め、複雑なレイアウトは実現出来ない。そのため、雑誌などのように複雑なレイアウトを保ったまま電子書籍にしたい場合、アプリケーションとして作成するという流れになっている。
EPUBとは?
実はリフロー型の電子書籍には、様々なファイル形式が存在し、EPUBはその中の一形式に過ぎない。ではなぜEPUBが注目されているのかと言えば、アップルやグーグル、バーンズ・アンド・ノーブル、ソニーなど、多くのメーカーがデバイスやコンテンツのフォーマットにEPUBを採用したからだ(アマゾンは独自形式を採用している)。そのため、リフロー型のファイル形式では、EPUBが中心的存在として使われていくであろうと言われている。
EPUB自体は電子書籍用の公開規格で、国際標準化団体のIDPF(http://www.openebook.org/)が内容を決めている。現在の規格では、縦組みやルビ、禁則処理といった、日本語特有の組版のことは考慮されていないため、日本電子出版協会(http://www.jepa.or.jp/)がIDPFに対して様々な要望を提出している。次世代の規格EPUB 3.0では、日本語用にいくつかの機能も追加されると思われるが、詳細はまだ未定だ。
EPUBの拡張子は「.epub」だが、実は拡張子を「.zip」に打ち換えると解凍出来る。解凍したものを開いて、一度、中身がどうなっているかを見てみると理解しやすいが、XHTMLやCSSといったファイルを中心に、画像ファイル、目次やファイル一覧などのメタファイルから構成されているのが分かる。これら一連のファイルを特定の約束の下にZIP圧縮したものがEPUBというわけだ。基本的にウェブと同様の構造になっており、表示させるデバイスや文字サイズを変更することによって、ページ境界が変動するのが大きな特徴と言える。
InDesignからEPUB書き出しが可能
InDesignでは、CS3以降のバージョンからEPUBの書き出しに対応しており、画像の品質や目次、フォントをどのように書き出すかも設定可能だ。
一般的にEPUBを作成する場合には、InDesignのようなEPUB書き出しが可能なアプリケーションを使用する方法(他にもアップルのPagesなどから書き出せる)と、Sigilなどに代表されるEPUBエディターを使用して作成する方法の2つがある(ちなみにSigilとは、オープンソースのEPUBエディター。無償でダウンロード可能)。目的やスキルに合わせて、作成方法を選択すれば良いが、既にInDesignで作成したデータがあれば、InDesignから書き出せば良い。
ただし、そのまま書き出しただけでは読みやすいEPUBにはならない。また、ファイル名を始め、リンク画像やスタイル名に日本語が使用されていると、問題が起こるケースもあり、色々と注意すべきポイントも多い。そのため、問題のないEPUBファイルが書き出せるよう、あらかじめデータに手を加える必要があるのが現実だ。
また、InDesignから書き出したEPUBファイルは、見栄えを整えるためにも、SigilやDreamweaverを使用して編集する必要があり、HTMLやCSSの知識もある程度必要になってくる。やはり、それなりのスキルは必要なのだ。
電子書籍の今後は?
「EPUBの作成にInDesignを使う必要はないんじゃないの」といった意見もよく聞くが、現状、EPUBだけを作成するということは考えづらく、印刷物と併せて作成するケースが多いであろうことを考えると、InDesignをEPUB作成のプレイヤーの1つとして使用することも「あり」ではないかと思っている。
今後、電子書籍がどのような形で進んでいくか、はっきりしたことは誰にも分からない。今回はEPUBを中心に話を進めたが、他にも様々なフォーマットが出てきている。いずれフォーマットはある程度淘汰されていくと思うが、どのようなフォーマットが残っていくか、はっきりとしたことは分からないのも事実。現状では電子書籍の仕事に取り組んでいないとしても、今のうちから情報を収集し、色々とテストするなどしてスキルを蓄積しておきたい。