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2月2日のPAGE2011カンファレンス「印刷会社の海外利活用のポイント」では、海外との印刷取引経験の豊富な3氏と中小印刷会社による海外展開の可能性を議論した。
典型的な内需産業のように言われる印刷産業だが、中小印刷会社においても海外展開を具体的な選択肢に入れる例が増えているようだ。PAGE2011では、海外との印刷取引経験の豊富な3氏によるセッションで印刷ビジネスの可能性を探った。
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野村総研上海の横井正紀氏は、中国の世界経済に占めるプレゼンスの増大を指摘した。そして中国における印刷ビジネスの可能性は大きいとする。主要先進国と比較した中国の1人当り紙消費量は半分以下で潜在市場は大きい。先進国では、デジタルメディアへの置き換えで印刷メディアが減っていくかもしれない。
しかし中国ではデジタルの成長率は下回りつつも経済発展で印刷消費量は増えていくとする。一方で、「日本は世界一特殊な国」という認識の不足を課題に挙げた。あうんの呼吸や品質偏重主義は通用しない。地域戦略とパートナー戦略を重視し、海外と一緒にビジネスしてシェアする発想に転換の必要性を説いた。
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株式会社山愛の山下裕己氏は、5カ年計画の中心に国際社会とのコミュニケーションを掲げた。従業員数75名ながら、「世界経済の流れに乗り、アジア市場の発掘に取り組む積極経営を展開する」方針を打ち出したのである。最初は社内有志でハングル語の勉強会を開き、そして皆で韓国を訪問、韓国文化を吸収していった。
品質基準の違い、見積もりルールなど、国が違えば印刷生産のルールもすべからく違う。確認、確認、また確認である。山下氏は「酒を飲んで過去の戦争の話もできるぐらいにならないと印刷取引なんてできませんよ」という。今ではソウルに営業所を持つ同社だが、印刷物の本質はコミュニケーションの産物と感じさせる。
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国進印刷の建石洋一氏は、2003年に中国、2006年にベトナム、2011年1月にはタイなど国際化を進めてきた。同社は社員20名ながら、中国での偶然の出会いから始まった同社のアジア展開を、今後さらに拡大させるという。ASEANの総人口約6億人はEUやNAFTAより多く、市場は大きくチャンスもあると語った。
建石氏は海外進出のリスクの多くは人脈や経験で克服できるとする。海外では電線の高さが充分でないことも多く、港から工場まで車が行き来できるか自ら確認すべきという。官公庁や警察との付き合い方、原料や電気水道インフラの供給体制、リスクや確認事項は多いが、それでも海外を使うメリットは大きいとした。
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3氏とも出会いや相手の文化を尊重する姿勢を大切にして、海外ビジネスを展開している点で共通する。ある日突然、海外展開をしようとしても難しい。まずは人脈をつくり、そして相手国を知り、シェアの精神を示すことである。国境を越えて印刷物を作ることの大変さ、そしてその楽しさを知るセッションとなった。