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東京・神田に老舗の印刷会社がある。JAGATの元最高顧問・故塚田益男の「ニッチなものを見つける」という言葉をヒントに模索し続けて行き着いたのは、「オリジナルトランプ」だった。
オリジナルトランプを始めたきっかけは、カレンダー以外の販促グッズを探していたクライアントに、54枚のワンパッケージで価値を知らしめることができるツールとして、提案したことだったという。
従来は「1組のカードゲーム」以外の価値観がなかったトランプに、新しい使い方を見出したのだ。
しかし、トランプ製作の知識やノウハウを持っていなかったため、ビジネスを開始した2003年から最初の4年間は試行錯誤の日々が続いた。
■かつての主力製品たち、歴史と伝統で培った技術をトランプに
トランプ製作にはいくつかの大きな課題があった。1つ目は「紙」の問題だ。既製品では絵柄や数字が透けるため、製紙会社に掛け合い、トランプ印刷に適したオリジナルのトランプ用紙を開発した。
その他にも、全ての角を丸く均一に抜くのは容易ではなく、ベストな方法を模索しながらやっと安定した品質を提供できるようになった。
■日英語併記の寿司ネタトランプ、海外からの旅行客にも人気のお土産品
また、丁合の難しさもあったという。カードの特性上、トランプは重複や欠落があると致命的な品質の欠陥になってしまう。しかし、始めた当初はたまに丁合ミスが起こり、何千ものトランプのセットを全て手作業で丁合しなおすこともあったそうだ。品質管理や検品を徹底しながら課題を1つ1つ克服してオリジナルトランプ製作のノウハウを確立し、顧客からの信頼も高まり、右肩上がりに成長を続けるビジネスへと育っていった。
今ではアーティストのノベルティやツアーグッズ、トランプ型商品カタログ、企業ノベルティやお寿司のネタを日英併記したお土産用トランプ、また、占い師の使うタロットカードや読み上げシール付きのカルタ、学校や教育のニーズなどもあり、ビジネスは派生的にジグソーパズルや手品グッズなどへも広がっていった。意外なところでは、地元・秋葉原ならではのヒット商品も生まれ、マスコミに取り上げられることも増えた。
■めんこやジグソーパズル型メッセージカードなど、トランプ以外の製品にも広がっていった
受注は全てオンラインで受け付けられるようWebサイトを充実させ、発注からデータ入稿まで全てWeb上で行えるシステムを開発した。見積もり依頼に対しては即日に対応するスピード感、メールや電話などで細かいフォローをしながら仕事を進めることなど、顧客重視の対応を徹底し、オリジナルトランプ業界屈指の存在となった。こうして、現在は昇文堂の主力製品となったオリジナルトランプ事業だが、市場は必ずしも大きくはなく、このまま伸びていくのか不安もあり、絶えず努力が必要だという。
「実は、トランプを作りたいというニーズは玩具メーカーだけじゃなく、たくさんあった。そこに着目してビジネスを始めただけだよ」齋田社長はそう話すが、自社にふさわしいニッチを見つけ、そこで成長していくことはとても難しい。しかし、昇文堂のようにまっさらな目で辺りを見回し続けることで、今あるものに新しい価値観を見出すことができるのかもしれない。
(JAGAT 日本印刷技術協会 研究調査部 小林織恵)