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沖縄アーティストがアテンドする沖縄音楽旅行本、というコンセプトで作られたフリーペーパー。
沖縄では、独特の音階を持つ沖縄民謡をはじめ、インディーズなど幅広いジャンルの音楽が親しまれている。安室奈美恵、夏川りみなど全国的に知名度の高いミュージシャンも多いが、これらは主に東京の大手事務所を通して発信されているもので、地元の音楽事情とは異なるものであった。
そこで徐々に「沖縄から発信して行こう」という気運が高まり、2009年秋に沖縄音楽の情報を発信するフリーマガジン『沖縄音楽旅行』が創刊された。掲載されているのは、沖縄出身のバンドによるタコライス発祥地の紹介、沖縄ことばや伝統音楽の紹介など、ローカル情報が中心。ディープな情報を発信することで、県外の沖縄ファンや音楽ファンに沖縄音楽の魅力をより知ってもらい、沖縄に来てライブや音楽イベントなど、広く体験してもらうことがねらいだ。
フリーペーパー『沖縄音楽旅行』。発刊元の幸田 悟氏は、フリーペーパー編集、イベント企画などを手がけるほか、ブログやWebマガジンで沖縄カルチャーの情報を発信を発信している。
同時に、連動するWebサイト「沖縄LOVEweb 」をハブとして、Youtube、Facebook、Twitter などを活用したり、誌面のQRコードを経由して掲載された音楽を視聴・購入できる仕組みを用意するなどのクロスメディア展開もおこなっている。
じっくり読んでもらえるようなインタビューや沖縄ことばの解説など読み返してもらえるような内容には、紙媒体が適している。一方、ライブ開催案内などリアルタイム性が高く拡散させたい情報にはTwitter、ミュージシャンの魅力を知ってもらう手段としてはインタビュー動画など、音楽の魅力がもっとも伝わる媒体を選ぶよう意識しているそうだ。
2012年8月から、本の良さをを見つめ直し良い本を創る「本っていいね」プロジェクトをスタートさせた。線数を230線に増やし、紙もスーパーホワイトを採用するなど印刷品質を高めたほか、沖縄らしいデザインとしてニスで特殊加工した紅型の柄を施した表紙とした。
「本っていいね」プロジェクトは、PLANNING OFFICE Coda、サン印刷、福山商事の共同プロジェクト。第4巻の表紙は紅型の柄が背面にニスで施されている。
印刷物の品質を良くすることによって読者数を増やすなど、目に見える効果をあげることは難しい。だが、この取り組みは新聞やラジオ、Yahoo!トピックなどでも紹介され、結果的に『沖縄音楽旅行』という媒体を知ってもらえる機会となった。
さらに、多くの読者が手にとったことで、結果的に県外の人にも沖縄音楽の魅力を広く伝えることができた。
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最近では、フリーペーパーからWebへ誘導し、そこからクーポンや商品情報を得てリアル店舗へ人を集めるO2O2O(Offline to Online to Offline)といった導線も、改めて注目されている。
クロスメディアの行動起点として、フリーペーパーの動向に注目していきたい。
(JAGAT 研究調査部 クロスメディア研究会 中狭 亜矢)