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経営者・実務家の育成に注力してきた越純一郎氏は、「企業再建に必要なものは『経営力』であり、その中でも最も重要なことは売り上げを伸ばすことである」と喝破されている。【JAGAT大会・特集1】
「越純一郎」という名前は知らなくても、NHKドラマ「ハゲタカ」のモデルと言えば、「ああ、あの人か」と思うかもしれない。もっとも事業再生ビジネスの第一人者である越純一郎氏は、「ハゲタカ」の異名をもつファンド・マネージャー鷲津政彦(大森南朋)のモデルではなく、その元上司でエリート銀行員の芝野健夫(柴田恭兵)のモデルである。
ドラマ「ハゲタカ」の登場人物の中で、多くの視聴者が共感を覚えたのは、やはり柴田恭兵演じる芝野が、日本企業のしがらみにがんじがらめになりながらも企業再生に全力を尽くす姿だろう。銀行を辞め、地方の会社の再建に赴く芝野のエピソードは、2000年に銀行を退職し、秋田県のシグマ/千秋薬品グループに参加し、3年で再建した越氏の活動が反映されている。
越氏自身は「自分はむしろ脇役で、大部分は他の方がモデルになっている」と語る。東大法学部を卒業後、1978年に日本興業銀行(現みずほコーポレート銀行)に入行した越氏は、22年間、日米でM&Aや証券化などを担当し、2000年に銀行を辞め、以降7年にわたって秋田県で企業グループの再生に従事している。その間の2003年に産業再生機構ができ、企業の再建活動が注目される中で、越氏に関する特集記事が『週刊ダイヤモンド』に掲載された。この記事を読んだ作家・真山仁氏が、越氏やその友人に取材して、小説『ハゲタカ』が生まれた。『週刊ダイヤモンド』の記事が小説に引用されていることから、「芝野健夫のモデルは越純一郎」と言われるようになったのだと言う。
実物の越氏は、ドラマの柴田恭兵の苦悩するイメージとはほど遠い。もっとエネルギッシュで、カリスマ性のある骨太な人物だ。事業再生の実務家として数々の実績を残し、経営者・実務家の育成にも注力してきただけあって、そのパワーに圧倒される。
ちなみに、小説『ハゲタカ』の芝野もドラマの柴田恭兵とはかなりイメージが違って、小説版のほうが越氏に近いだろう。
ドラマ「ハゲタカ」は、小説『ハゲタカ』と『ハゲタカⅡ(バイアウト改題)』の2作品を原作とし、主要人物名や取り扱われる経済活動の一部などは原作に沿っているが、ドラマ全体は原作とは大きく異なる。小説の鷲津は芝野の元部下ではないし、過去の因縁話も全く違っている。
ドラマ化に当たって、真山仁氏は「ドラマと小説は別物です。なので、ドラマとして面白い『ハゲタカ』を見せて下さい」と明言した。ただし、原作者として「この小説の中で訴えたかったテーマだけは残して欲しい」と考えた。それは一言で言えば、「言い訳をしながら生きることはもう止めよう」ということだった。
ドラマ化に大きな期待を寄せながら、真山氏はそのことを次のように説明している。
日本人は何かうまくいかなくなるとつい「誰かのせい」にしてしまう悪い癖がある。時にはそれもいいだろう。だが、それを繰り返してばかりでは、いつかは滅びることになる、現代ニッポンがおかれているのは、そういう厳しい時代なのだ。小説『ハゲタカ』『バイアウト』の出発点はそこにあった。勇気を持って日本の国が抱える問題を正視しようじゃないか。そんな想いを込めた。ドラマ「ハゲタカ」が、大きな勇気を我々に与えてくれることを願ってやまない。
ドラマ「ハゲタカ」では、鷲津の「お金を稼ぐことがいけないことでしょうか」という発言や、ITベンチャー企業社長(松田龍平)がインサイダー取引で逮捕される場面など、放映当初(2007年2~3月)の時代背景を強く想起させた。スタイリッシュな映像やモデル探しだけでなく、ゴールデンパラシュート、ホワイトナイトなどの目新しい経済用語も注目された。
しかし、真山氏が描きたかったものは、「勇気を持って日本の国が抱える問題を正視しよう」という普遍的なテーマだった。
「ハゲタカ」のモデルとされる越氏も「企業経営に携わる人間は、高い志、倫理観を持つべきであるということです」と強調されている。「会社を再建したり、大きく伸ばすのに必要なのは『経営力』なのです。資金力ではありません」。
次回は越純一郎氏の著書『事業再生要諦 志と経営力-日本再生の十年に向けて』から、「経営力」について紹介します。
「企業再生7つのキーワード 今こそ「本物の勇気」が求められている 」
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「JAGAT大会2011 印刷新創業宣言~高い志と本物の勇気」
2011年06月15日(水)東京コンファレンスセンター・品川
特別講演には事業再生ビジネスの第一人者 越純一郎氏を招聘!
「マーケティング」「クロスメディア」2つのテーマについて分科会を開催し、ディスカッションしていきます。