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企業倒産は減少しているが、次第に増加しいるM&A
■企業倒産は減少しているが潜在リスクは高まる
東京商工リサーチの調べによると、2010年度の国内全産業の倒産は1万3065件、負債総額は4.7兆円だった。倒産は2年連続で減少し、負債総額は20年ぶりに5兆円を下回った。2010年度は倒産状況から見ると景気が堅調だったように見える。
しかし、倒産の減少はリーマン・ショック後に打ち出された「景気対応緊急保証制度」や「中小企業金融円滑化法」といった金融支援策の延命効果によるものだ。震災も重なって景気の好転や企業業績の改善は遅れており、倒産減少の裏側では実質的にリスクの高い企業が増えていると見てよい。
2010年度の製造業の倒産は前年度比15%減の2045件、負債総額は3%減の7584億円だった。うち、印刷・同関連業は230件(10%減)、368億円(30%減)である。2010年度の印刷・同関連業の倒産の特徴は、2009年度より20%程度小型化したことだ。
■2011年度の景気・倒産見通し
3月11日の東日本大震災により、当初は堅調と見られていた2011年度の状況は一変した。震災後も原発問題と電力問題が横たわり、景気の先行きを巡る見通しは不透明感を拭えずにいる。
福島第一原発の半径30キロ圏内の企業は2000社以上、ここに位置する企業の売上高は少なく見積もっても5000億円以上、これだけの市場が機能しなくなったのである。また、震災の影響をリリースした上場会社は1000社以上にのぼる。
政府や自治体は更なる企業支援策や特例措置を講じてセーフティネットを用意したため、2011年度は当面、倒産が減少する公算が強い。同様に、阪神淡路大震災の際、神戸では16カ月連続で倒産の減ったことがあったという。
潜在リスクは減っていないと見て、企業経営では与信管理とその体制を再確認するようにしたい。
■2011年に入って急増した中堅印刷会社のM&A
2011年に入ってから、佐川印刷(京都)とJTB印刷(東京)、東京リスマチック(東京)と大熊整美堂(東京)、シイエム・シイ(愛知)と丸星(東京)、日本ユニシス・サプライ(東京)と寺田倉庫(東京)など、印刷業界では有力中堅クラスのM&A発表が相次いだ。
明確な目的を達成するためにM&Aが戦略的に選ばれている。M&Aのメリットの一つは時間を短縮できる点だ。自社で事業を作るのは時間がかかる。人を採用し、育成して、ビジネスモデルを作っても、成功するかどうかはわからないし、時間を要している間にマーケットの状況が変わってしまう可能性も大きい。
それならば、欲しい事業を展開する会社や事業部などをM&Aで、人材・ノウハウ・得意先などをパッケージで入手すれば、特急券を手に入れることができる。
■中小印刷会社にとっても様々なM&Aの活用法
しかし実際のM&Aシーンでは、先行き不安と後継者難のようなもっと身近な動機が多い。しかも、これからは団塊世代経営者がリタイアしていく年齢を迎える2012年問題がある。
近年増えているのは、もともと後継者難だったところに経営者自身の健康問題が顕在化して、慌ててM&Aで買い手を探し始めるケースだ。状況が悪いと相手を選ぶ時間も余裕もなく、有利な条件を得にくくなる。時間を掛けて計画的に進めるに越したことはない。
現実にM&Aを利用する中小印刷会社の平均的な規模は、総資産が1億円から6億円といった規模であるとの見方があり、M&Aの利用は大企業に限らない。例えばクロスメディア展開を視野にIT関連企業を買う選択肢もある。売りと買いの両面からM&Aの可能性を選択肢の一つに加えることを一度考えてみたい。
プリンティング・マーケティング研究会2011年3月10日開催セミナー「広告市場と購買行動の最新行動2011」より。(研究調査部 藤井建人)