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印刷業界にとって電子書籍は対岸の火事ではない。ビジネスになるなら何としても自分の仕事にしたいが、紙の仕事に影響したりしないかと躊躇してしまうのも正直な気持ちだ。元々PostScriptとEPUBは水と油みたいなものなので、この辺でじっくり見つめ直すことも必要だ。
印刷業界が電子書籍に取り組むとなると、まずはじめに考えるのがInDesignからのEPUB書き出しだが、正直な話Dreamweaver等を活用しないとまともな電子書籍が作れないのが現状だ。「べき論」で言えばXMLデータからのEPUB作成が一番スッキリするのだが、印刷業としては最低限DTPデータを使って加工しなくてはいけないのだから、そのデータを少しでも活用したいのは当然である。
しかしPostScriptとEPUBは水と油のデータなのでどんなに上手くデータをコンバートしても余分な情報が付いてしまい、それをエディットしなくては使い物にならない。このことは理屈では分かっていても中々割り切れないものである。しかし、データが水と油だからマルチユースが進まないかというとこれは真逆で、ますますDTPと電子書籍の融合が進むことが予想される。それも書籍というよりもカタログやチラシといった商業印刷で普及していくだろう。また欧米のように電子書籍でまず本が試験販売され、好評なら紙でも出版するケースや、希少本を電子書籍と紙(POD)出版するケースが多くなるのは間違いがない。
iPad騒ぎで印刷業界は騒然としたが、iPad2の発売の時には東日本大震災がありもう一つ盛り上がりを見せなかったのも事実である。「紙がなくなる」「インキがなくなる」「これでは電子書籍しかない」などと言っていたのに現実は意外に冷ややかだった。しかし一時デジタルサイネージがすっかりご無沙汰だった東京も七月に入ってJRの駅を中心にじわじわ広まっている。正直な話、ここまでやられると紙のポスターの出番はない。どんなに頑張ってもアイキャッチという点では勝負は見えている。
同様に今回の震災で電子書籍のコミック辺りが急激に伸びるかと思いきや、実際には地味な分野で電子書籍が伸びているのである。例えばマイコミの「将棋世界」、今までは棋譜という無味乾燥な勝負展開が記載されていただけのものが、電子書籍なら駒の動きと音が付くのだから臨場感は段違いになる。プロなら棋譜だけでも醍醐味は理解できるだろうが、素人には動きや音が付くだけで魅力的なコンテンツになるのは間違いがない。ましてや将棋ゲームソフトとリンクしたら尚更である。こんなことがじわじわ進行しているのだ。
また青春時代お世話になった人も多い有名なハーレクイーンロマンスだが、電子書籍化して大きく売り上げ増を達成しているとのことである。ハーレクイーンファンは年齢のいった女性も多く、書店で買うのは恥ずかしいという人もいたのだが、電子書籍化によって顔を合わせず買うことが出来、広く購買層を確立したということなのだ。またハーレクイーンは売り切りビジネスで、売り切れたらもうおしまいで再版なしだったのだが、電子書籍化して昔の作品でも手に入れることが出来るのは大きな変化といえるだろう。
話は変わるが、大学の一般的な光景として期末試験前のコピー需要というのがある。我々のころはPPCが高かったので、字のキレイな学生に片面だけにノートを書かせ、それをジアゾコピー(青焼き)したものだったが、今の学生はノートからPDFを自炊してiPadやAndroid端末で見ているのだ。こんな学生が社会人になるころには出版環境も変わらざるを得ないのは致し方ないことだ。
印刷業にとっての電子書籍フローをどう考えるか?ベストアンサーはマルチユースを考えたデータ作成、つまりXML化した基本データを作成し、そこからEPUBデータを作成したり、Webデータを作成したり、DTPデータを作成するというフローだろう。これは模範解答なのだが、Adobeなどは自前のソフトがあるので、InDesignから不十分なEPUBをはき出してDeamweaverでエディットするというフローを推奨している。これよりはモリサワのMC Bookなどの方がスッキリしているかもしれないが、独自フォーマットというハンデは負うことになる。
そして今回考えてみようというのがQuarkのVer9.0を使用した方法なのだが、EPUBをはき出すというよりは、もう少しPDFよりというか、単なる画像では芸がないが、EPUBをはき出すには無理が多すぎるということで、データ単位ではき出してある程度の自由化を持たせたデータフローが成り立つのではないかという提案を考えている。そしてその提案を取り上げるのが2011年8月2日に行う「電子書籍時代のDTPワークフローを考える」 研究会ミーティングである。
従来から新しいワークフローにチャレンジしているマイコミの+DesigningやeBookジャーナルが現在やっているPDF/X-4でのフローの紹介から、今後の課題を解説いただき、現在トライしている電子書籍フローまで紹介いただく。現在研究しているのがQuark9.0を利用したものなのだが、InDesignと対比させたりして印刷業にとってのメリットを考えてみたいと思っている。Quark4からご無沙汰している方も多いと思うが、印刷業のことを考えたら健全な二社がしのぎを削る環境があったほうが良いに決まっている。そんな意味合いでもQuarkの最新事情を検証しつつ印刷業にとっての最良のワークフローを考えていきたいと思っている。(文責:郡司秀明)
■関連セミナー
「電子書籍時代のDTPワークフローを考える」
日時:2011年8月2日(火) 14:00-16:30
スピーカー:マイコミ小木編集長、小林副編集長、Quarkジャパン冨山マネージャー