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景気後退局面における情報メディアと印刷市場の動向について展望する
■印刷市場は2006年まで9年連続縮小
経済産業省の「工業統計」によれば、印刷産業の出荷額は2006年まで9年連続で低下してきた。1991年の8.9兆円をピークに低下基調が続き、1997年前後には一時回復基調にあったものの、2006年には7.0兆円まで縮小した。市場縮小の要因には人口減少、技術革新、メディア多様化、低価格化などがあったと考えられる。
■メディア多様化とともに減少してきた印刷製品需要
印刷産業出荷額の実質GDPに占める割合は、1991年の1.9%から2006年は1.2%まで低下した。特にインターネットが飛躍的に普及し始めた1998年前後から低下幅が拡大した。紙媒体から電子媒体への置き換え需要はいったん峠を越したと見られ、低下ペースは鈍化しつつあるが、いまだ下げ止まってはいない。
■2007年の印刷市場は10年ぶりの拡大
「工業統計」では2007年の部分的な印刷産業出荷額の速報値を公開している。これを基礎に推計すると、2007年は1%前後のプラス成長で印刷産業出荷額は10年ぶりの増加に転じた公算が強い。ただし、これは用紙価格高騰による部分的な価格転嫁の進展や、2度の全国規模選挙などの不定期需要が寄与した結果と見られる。印刷業界が持続的な成長性を回復したと捉えることは難しい。
■2008年の印刷会社経営
2008年は、印刷各社が断続的な用紙価格値上げと年初からの再生紙偽装問題に苦しんだ。落ち着き始めたところに金融危機が直撃した構図で、JAGATの調べによる中小・中堅印刷会社の売上高前年比は5月から4ヵ月連続のマイナスに陥った。秋に第2四半期決算を迎えた上場印刷会社22社の業績は売上高が約4%増なのに当期純利益が約30%減の増収減益であり、印刷各社が原料価格高騰と価格転嫁に苦しんだ様子がうかがわれる。
■2008年の印刷製品需要
JAGATの調べによる中小・中堅印刷会社の受注件数前年比は、2008年8月まで1997年以来の9ヵ月連続マイナスとなった。2005年以降の景気回復局面で印刷市場を牽引してきたフリーペーパーが用紙価格高騰の影響で失速した。堅調な需要のあった折込チラシも減速から後退へと局面が移行した。言うまでもなく、有料定期刊行物の減少基調も続いている。既存印刷物においても用紙価格高騰対策としての薄紙化や小型化などが見られた。
■2009年の印刷市場動向
主要シンクタンクは日本経済について2008年、2009年と2年連続の実質GDPのマイナス成長を見込んでおり、印刷の基礎的需要も実質GDPのマイナス成長に比例した減少が見込まれる。遅れている価格転嫁の進展と衆院選のようなイベント的不定期需要の寄与を見込むことはできるが、景気後退のなか、イベント的不定期需要で基礎的需要減を補完してプラス成長を望むシナリオは難しいと見ることが現実的だろう。
■印刷会社経営者の2009年予測
JAGATが会員企業に対して行った調査によると、印刷会社経営者による2009年の売上高伸び率予想の中間値は0.9%のマイナス成長であり、前年同期の調査(+2.1%)よりも大幅に低下した。2009年以降の印刷市場を楽観視はできないが、印刷会社経営者は2009年以降について景気悪化をかなり保守的に織り込んで対応しており、行き過ぎた資源価格高騰の落ち着きもあって、正念場との見方は増えたが過度の悲観でもない中立的なスタンスが多い。
■景気後退にどう対応するか
広告費支出抑制の波、フリーペーパーのピークアウト、電子チラシの実用段階化など、印刷を取り巻く変化はめまぐるしく、イノベーションの兆候も散見される。メディア多様化対応に不可欠なワンソースマルチユースの情報加工技術やグラフィックの訴求表現技術は印刷会社の既存技術の応用線上にある。景気後退が長期化するとの見方が増え、企業は支出を引き締めているが、費用対効果の見える支出が引き締められているわけではない。
■2009-2010年に向けて
従って、印刷会社が景気後退局面の中でも情報加工の担い手として優位性を発揮し続けるには、印刷需要を誘発できる情報加工技術やメディア展開力、効果測定技術を備える必要性がある。メディアの多様化に比例して売上が落ちるならば、メディア多様化への対応も必要だ。また、過去を振り返っても、大型の景気後退局面で生まれたイノベーションが次代を切り拓いてきた。その意味で、現在のような時期に将来を展望することは印刷会社経営にとって極めて有用と思われる。
<関連イベント>
2009年1月28日のセミナーでは、2009年の情報メディアと印刷市場について展望する。
プリンティング・マーケティング研究会・セミナー
情報メディアと印刷市場の展望2009