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震災によって自分自身の生き方を見直し、コミュニティーについて考えるようにになった。世界中の人々が同時に目撃し、共感し、理解し、援助したことは、グローバル・アイデンティティーの規範になるだろう。
東日本大震災は、社会学的に見ても人類学的に見ても人間に多大な影響を与えた。多くの人々の人生観を変えた。前向きに考えれば、震災によってコミュニケーションが増え、人と人とのつながりが拡がったと言えるであろう。
評論家の柄谷行人氏が震災前の2011年2月6日に朝日新聞の書評欄に掲載したレベッカ・ソルニットの『災害ユートピア――なぜそのとき特別な共同体が立ち上がるのか』(高月園子訳、亜紀書房、2010年)が注目を集めている。
ごく簡単に内容を紹介すると、災害が起きたときに発生すると思われる暴動や略奪といった混乱は実は一般的には起きない。それどころか例外なく被災者たちによる「災害ユートピア」という秩序だった共同体が発生すると指摘している。さらに、政府関係者のような指導者層が混乱を恐れるあまり「エリートパニック」に陥り、混乱を抑制しようとするあまり、鎮圧のための軍隊導入や情報の隠蔽が逆に混乱を生じさせる原因になるとしている。
柄谷氏は阪神淡路大震災のときのことを「被災者と救援者の間に、相互扶助的な共同体が自然発生的に生まれた。そのような「ユートピア」は、国家による救援態勢と管理が進行するとともに消えていったが、このときの経験から、その後に生き方を変えた人が多いはずである。」と述べている。
震災後の日本人の落ち着いた行動がニューヨーク・タイムズ(2011年3月26日付)を始め世界から賞賛された。しかし、それは必ずしも日本人の美徳のみがなせるものではなく、災害ユートピアと呼べる共同体の意識が働いたからであろう。
今回の被災した日本人が冷静で礼節を重んじた行動をとったという事実は誇るべきにしても、一方でコミュニティーの意識について考えることになったことこそ重要だと思う。メディアや通信技術の発達のおかげで、世界中の人々が同時に目撃し、共感し、理解し、援助した。これこそこれからの生き方に求められるグローバル・アイデンティティーの一つの規範になるのではないだろうか。
震災がわれわれに与えた影響には、「生き方の変化」「メディアへの信頼度の再確認」「企業の考え方の見直し」などが挙げられるのではないだろうか。
■「印刷白書2011」 (2011年9月12日発刊予定)
「印刷白書2011」の第1部「特集 震災とメディア」では、震災後のメディアのあり方、メディアの使命、復興、公益性、公共性などを考察しました。