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もう一度学び直す!! マスター郡司のカラーマネジメントの極意[1]
さて、第1回目としてはスミ版について考えて行きましょう。この問題はJAGATのセミナーなどで何度か取り上げていますが、やはり大事なのでこだわりたいと思います。まずトラッピングについて復習しておきます。ここでのトラッピングはDTPで言うところのニゲ・カブセ処理のことではなく、印刷適性つまりインキ転移特性のことを指しています。そしてこのインキ転移特性改善のために、UCR(Under Color Removal)やGCR(Gray-Component Replacement)を使用してCMYインキをスミインキに置き換えるのはご存じですね。
UCRとGCRについてはあまりシャッチョコバッて区別することもないと思いますが、アナログ時代にグレー成分を正確にスミインキに置き換えるのは難しかったので、シャドー部だけCMYインキをスミインキに置き換えて印刷適正改善するものをUCRと呼んでいました。デジタルになってハイライト側まで完璧にスミインキに置き換えられるようになると、グレーに限らず色の濁り成分、つまりCMYインキの中での反対色をスミインキに置き換えることまで可能になり、濁りをすべてスミインキに置き換えて2色(必要色)+スミという特殊再現法もそれほど難しくなくなりました。これをドイツ語ではUnbuntaufbau(無彩色印刷)と表現し、英語(Photoshop的)で100%もしくはフルGCRと呼んでいます。100%以外はそれぞれ何%GCR(グレーコンポーネントをスミにリプレースメント=グレー成分をスミインキに置き換える)と言ったり、ただのGCRと言っています。
しかしスミ版に置き換えると言っても、日本と欧米では環境が全く異なるのが困りモノなのです。もちろん日本のほうが総インキ量、印刷機から紙に転移できるインキ量も多いのですが、ここでは総インキ量の違いは置いておいて、まずスミインキそのものの違いから考えていきましょう。
「反対色をスミ版に置き換えたGCRの場合は、印刷が安定していれば良好な結果が得られますが、印刷が不安定になりドットゲインが大きくなった場合は、著しい彩度低下、スミっぽい結果を招いてしまう」のです。昔からスミで調子を出すという技法は、玩具の原色(キンアカが多かった)やカメラ・蒸気機関車などの黒い機械モノには多用されていましたので、雰囲気は理解できると思います。具体的な例を挙げると、「Y100%、M100%、C30%、Bk0%」という色(キンアカ)でGCR効果をフルに効かせれば、「Y95%、M95%、C0%、Bk29%」あたりになります。もちろん理屈を分かってもらうための例ですから、YMは変化なしC=Bkでもかまいません(「Y100%、M100%、C30%、Bk0%」が「Y100%、M100%、C0%、Bk30%」と考えてもOK)。
標準的な印刷条件(ドットゲイン状態)を常に維持できれば、100%GCRは「ツヤ」「ボリューム」「モアレ」といった問題は残るものの、カラーマネジメント的な色に関しての問題は基本的にありません。しかしドットゲインが大きくなった場合は、色そのものも問題になってくるのです。中間で20%くらいのドットゲインがあると仮定すると、非GCRは「Y100%、M100%、C48%、Bk0%」、100%GCRは「Y95%、M95%、C0%、46%」というイメージになると思います。ところが、この2つでは色、もっと正確に言えば彩度が異なってくるのです。シアンインキは下色を透過しますが、スミインキは透過しません。従って、YMで表される赤色成分はドットゲイン分が失われ、100%GCRのほうはが低下し「スミっぽく」なってしまうのです。
欧米ではスミインキと言っても日本に比べて濃度が薄く下色をある程度透過するので、この彩度低下は日本ほど問題になりません。日本では「スミノセ」という言葉があるくらいですから、スミインキはスペードのエース並で、スミ下がどんな模様であろうと覆い隠してしまいますが、欧米では「リッチブラック」といってスミ下を処理しなくてはいけません。スミ下をC50~60%くらいの平網にしないと、下地が透けて見えてしまうのです。だから欧米ではリッチブラックというスミ下処理も代表的なDTP常識と認識されています。
デジタルカメラが日本に普及しだしたころ、勉強熱心な人は欧米のDTP関連の専門書を勉強(真似)していました。例えばアメリカの印刷規格であるSWOPを使ってデジカメのRGBデータをCMYK変換していましたが、多くの印刷人は「デジカメは色が悪い。スミっぽい」と文句ばかり言っていました。しかし、真実はデジカメのデータが悪いわけではなく「日本の印刷条件に適したICCプロファイルがなかった」という唯の一点に尽きる問題だったのです。紆余曲折(うよきょくせつ)の末、日本(人)の日本人による日本人のためのICCプロファイルが、Photoshopに載ることになりました。そのプロファイルこそJapan Color 2001 Coatedで、日本の標準印刷用プロファイルなのです(図4)。
対するバター味たっぷりの印刷標準がSWOPですが、CMYKの調子再現を見ていただければ中間からシャドー側にかけて調子がスミに依存しているのが分かると思います(図5)。だからデジカメデータがスミっぽくなってしまっていたのです。SWOPはオフ輪用で、Japan Color 2001 Coatedは枚葉印刷用ですが、日本版SWOPとも言えるJMPA(雑誌広告協会カラーターゲット)向けに作られたJapan Web Coated (Ad)を見てください(図6)。SWOPもJMPAも総インキ量は300%なのにスミ版カーブは異なっています。
今でも「デジカメの品質はスミっぽい」などと言っている方を見かけますが、これは決してデジカメのせいではなく、Photoshopのせいでもなく、分版(RGB to CMYK変換)に使用したプロファイルに起因する問題ということだけはご理解いただきたいと思います。
本日のポイントを整理しておきます。
次回はプロファイルの重要性について皆さんとじっくり考えていきたいと思います。ではでは。
(プリンターズサークル・2007年7月)