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もう一度学び直す!! マスター郡司のカラーマネジメントの極意[5]
随分待たせてしまったが、今回から本格的に「初歩の初歩」を解説していくことにする。しかし初歩の初歩と言っても、「ひねくれもののマスター郡司」が解説するのだからただのハウツウものではあるはずもない。そこで今回は、「マスター郡司風カラーマネジメントの何を勉強すべきか」について、ポイントを語っておきたいと思う。
例えば、普通のカラーマネジメント関連のハウツウものには必ず「難しいCIE色彩学などは理解する必要はない。まずは実践的なオペレーションからマスターしよう」と書いてあると思うが、印刷業の場合はオペレーションができても、それが仕事につながることはない。オペレーションを間違えて製版・印刷事故を起こせば2度と仕事は来ないだろうが、普通のオペレーションができても「この仕事はぜひオタクに頼みたい」などということはあり得ない。また理屈はともあれ職人技に長(た)けているだけでも、これからは仕事に結び付けるのは難しいだろう。
メーカーの多くは色彩を理論的に考察し、生産管理にも細心の注意を払っている。しかし、印刷会社の多くは発注者の気持ちを心情的には理解はしても、理論的に理解しようとはしない。CGデザイナーやカメラマンにも同様のことが言えるのだが、これでは色を技術的に解決していこうとしているメーカーの相談相手になることはできない。
まずは、CIE(色の国際規格団体、後日詳しく解説)あたりから勉強し直すことをお勧めする。CIE知識を常識とした上で職人的なノウハウを生かして、CG・動画・Web関係者と色のコミュニケーションが取れること、そんな印刷会社には値引きなしで仕事を発注したくなるはずだ。
カラーマネジメントが、がぜん注目され出した理由の第1はデジカメ入稿だろう。そして、それに呼応したようにJMPAカラーやJapan Colorなどの標準印刷基準が重要視されだしたということだ。メーカーを中心に標準カラーへの動きは加速度的に速まっているし、カラーマネジメントの準備がないとクライアントから相手にされなくなってしまうだろう(既に?かもしれない)。
しかし心理物理量である「色」を対象としているため、多くの流儀が林立しているのは現実だ。それ自体を全面否定するものではないが、それぞれの流儀には、それぞれそうなっただけの理由があるはずで、そのことを考え直すことは色に関して何よりの勉強になる(とマスター郡司は考えている)。
では、当たり前のおさらいからだ。従来の印刷を取り巻く環境では、色情報をデバイス間でやり取りすると色が合わないことが問題になっていた。例えば、現場では色校用のプリンタと本機の印刷物との差を職人が想像して色合わせを行っていたが、これはデバイスに依存する情報(デバイスディペンドバリュー)で色情報授受を行っているために起こることである。印刷業界の方はそれを当たり前としているが、本来は問題にすべきことなのだ。そこで、デバイスに依存しないPCS(Profile Connection Space)を介してデータ授受を行うことが提唱され、カラーマネジメントの考え方が生まれたということだ。
分かりやすく言えば、
「日本の印刷会社が日本のインキ用にセットアップしたCMYKデータをアメリカに持って行き、アメリカのインキで印刷したら仕上がりが全く違ってしまった。つまり、CMYKデータはインキに依存するデバイスディペンドバリューである。日本のインキだろうと、アメリカのインキだろうと、絶対値CIE
Labでやり取りすれば色が合うという理屈が、カラーマネジメントの基本概念である」
ということなのだが、ここは特に問題はないと思う。
固有デバイスとPCSを関連付けているのがプロファイルであり、カラーマネジメントの規格化を進めるために設立された団体であるICC(International Color Consortiumの略で前述のCIEの下部組織的位置付け)の名称を付けてICCプロファイルとも呼ばれている。現在ColorSyncやICMのカラーマネジメントシステム、カラーキャリブレーションツールの多くは、ICCに準拠しているのもご存じのとおりだ。
問題はWindows Vistaで、カラマネオタクの間ではCIE CAM(環境光を考慮した見え自体も扱える)の概念を取り入れた新カラーマネジメントシステムが待望されたのだが、残念ながら未完の大器に終わりそうな雰囲気になってしまっている(よう? である)。一部のデバイス・ソフト以外は、Windows XPと変わるところはないのが現実だ。
ICCプロファイルに関しては、これまでにも解説したように、カラーマネジメントノウハウの大部分のノウハウがICCプロファイルに詰まっているということだ。アナログ製版時代は「色再現ノウハウ=スキャナセットアップ」だったように、プロファイル運用で仕上がりはいかようにもなってしまう。Macの場合ICCプロファイルはユーザーごとではなく、HD(管理者)直下のライブラリーフォルダの中のColorSyncフォルダ(図1)のそのまた中のProfilesフォルダ(図2)に入っている。おススメのAdobe製プロファイルは、その中の文字どおりRecommended(図3)に入っている。もっともこのRecommendedフォルダはエイリアスで、本物はAdobeフォルダに入っているが、このエイリアスで常にチェックするようにすれば問題はない。
Macの場合は、このICCプロファイルをダブルクリックするだけで、ColorSyncユーティリティというOS付属の純正アプリが立ち上がり、カラーマネジメントの核心世界、ICCプロファイルの中身を体感できる。ちなみにおなじみのJapan Color 2001 Coatedをダブルクリックしてみたものが図4だが、その中でもこれはヘッダ部分に書かれているものだ。いつ、だれが作ったか? そんな情報がすべて分かってしまう。この例ではアドビが責任を持って作っているのが分かるはずだ。
しかし、プロファイル名に日本語を使ったりするのを時々どころかショッチュウ見掛けることがあるが、「何々.icc」というファイル名自体は日本語でも認識できるが、アプリ上、例えばPhotoshopではアラビア文字のように文字化けしてしまう。だからプロファイル名には必ずアルファベットを使わなくてはいけない。経験上日本語を使っているプロファイルは、その品質も期待できないモノが多い。ColorSyncユーティリティではそのほかさまざまな情報をチェックできるが、詳細は次回に回すとして、まずは色域を3Dでして見よう(図5)。
A2B0とは、ソース(=A)to(=2)デスティネーション(=B)へ色変換することを表しているのだが、その時のレンダリングインテントというマッピング方法に知覚的、相対的、彩度保持というものがあり、それぞれ0、1、2という数字で表している。3Dでチェックすれば大きさ形に差はないが、色のマッピングには微妙な差を確認できるはずである(大きさ形に差が出たらJapan Colorの再現域がレンダリングインテントで変わってしまうことになるので、同じでなければいけないのだ)。Windowsも次回に改めて詳説するが、別にProfileの場所が分かってもWindowsの場合は特別なツールを使わない限り、ユーザーレベルでは何もできない。
印刷業界の人間にはどうもコンプレックスがあって、自分たちが一番お世話になっているCMYKデータよりRGBデータのほうが高尚だと思い込んでいるのは困ったものだ。ひと口にRGBと言っても実はさまざまなRGBがあるのだ。CCDなどのRGBセンサーからの電圧(電流)というダイレクトな物理信号。ハイエンドスキャナのように人間の特性に合わせて対数圧縮(人間の知覚は鈍感で、100倍で2倍、1000倍で3倍になったように感じるので、対数で表現すると感性により近くなる。音の単位、デシベルも対数で表示)してあるものとさまざまである。
しかし、CIE LabやXYZ値の場合、RGBの派生データではあるのだが、デバイスには依存しない絶対値なので注意をしてほしい。つまり、カラーマネジメントに使用するカラーの測色値はデバイスに依存しないRGBデータを使用するか、Adobe RGB空間もしくはsRGB空間の中のRGBデータというように、「氏素性のハッキリしているRGBデータを使わなくてはいけない」のだとしっかり覚えてほしい。
同じようにスキャナと言うと正確な色を再現するものと思われがちだが、普及タイプのスキャナの多くは、正確なRGBデータという意識よりもCRTモニタで美しく映るようにだけを考えて、CRTのγを考慮して逆γを掛けたRGB信号を作っているのだ。
Windowsの標準γは2.2、Macは伝統的にγ1.8を推奨している(良い悪いは別にして、γが高ければコントラストには見える)。このようにγ値を始めとして、デバイス環境に依存するのがRGB信号なのである。紙にはγ1.7~1.8ぐらいが近いので印刷学会から最近答申されたモニタ設定基準では1.8を推奨している(この連載で後日詳説することを約束する)。
色を表す値の優等生だったRGBに対して、CMYKデータ(通称網%、dot%)は劣等生、デバイスディペンドバリューの代表と考えられているようだ。この場合、依存するデバイスは主としてインキ(色、正確には分光反射率が異なる。
日本のマゼンタインキは欧米に比べてシアン成分を多く含んでいる)と紙、細かいことまで挙げれば、水やベタ濃度(濃度はインキ皮膜の厚さを表している。つまりインキの盛り加減である)、印圧やブランケットの性質など印刷機本体関連、また温度・湿度などの印刷工場の環境が影響するので、実にさまざまな要因に依存している。しかし網%自体は「面積率という絶対値」なので、色を表現する情報の中では別格的存在とも言えるのだ。つまり、日本のインキや紙が統一(もしくは標準化)されれば、網%データは絶対値扱いできるのだ。
世界的に見れば、日本のオフセット印刷は比較的安定していたので、長い間データの受け渡しにはCMYKデータが使われてきたし、実際にも問題がなかったのだ(インキメーカー間の差も世界的に見れば小さいほうだった)。しかし、これがかえって日本のカラーマネジメント普及を阻害した要因にもなっていたのは事実で、実に皮肉なことなのだ。
蛇足(だそく)だが、スクリーン線数、点形が異なってもドットゲインなどの印刷条件が異なってくるので、プロファイルは区別しなくてはいけない。これまた蛇足であるが、インキの色だけではなく、濃度(インキ皮膜厚=インキの盛り方)を変更しても分光反射率は異なってくる。このようにプロファイルは条件が少しでも異なれば、個別に用意する必要があるのだが、重箱の隅を気にするよりも、基本がしっかりしているプロファイルでCMYK変換したCMYKで印刷すれば、個別に微調整した出来のプロファイルより印刷の仕上がりはずっと良いことだけは力説しておきたい。
今回のIGASでJapan Color 2007が発表されたが、恐らくコレに準じたさまざまなプロファイルが発表されると思うが、しばらくは今までどおりPhotoshop付属のJapan Color 2001 Coatedを使うべきである。なぜなら2007で改良されているのは印刷条件部分であり、アドビが作った2001プロファイル以上のものを私はまだ見たことがないからだ。ということは、このプロファイルを使って変換したCMYKデータを新しいJapan Color 2007で印刷したのがプラグマティズム的には正解ということになるだろう。
このへんは次回に詳説することを約束するが、同様な理由でJapan Color 2001のプロファイルと言っても良いものもあれば、とんでもないものも少なくないのだ。プロファイルにはご用心ということである。
(プリンターズサークル・2007年11月)