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デジタル印刷の基本(1)
デジタル印刷の特徴として、例えばオフセット印刷が有版であるのに対して、デジタル印刷は無版という点が挙げられる。無版であることから、デジタル印刷では入稿から印刷までのプロセスを自動化することができる。これは、印刷にかかわるコストの削減や人手がかかわることで生じる人的ミスをなくすことにつながる。
無版であるという特徴を活かすことで、一部ずつ印刷物の内容を変えるバリアブル印刷が可能となる。印刷会社はこの機能を活用することで、パーソナライズやバージョニングといった付加価値の高い印刷サービスを提供することができる。
また、環境対応性の高いこともデジタル印刷の特徴である。例えば、デジタル印刷機では損紙は出ない(出る場合でも少ない)。また、製版のプロセスがないことから、アルミ製のCTPが不要なため二酸化炭素排出量も低く抑えることができ、印刷時には湿し水を必要としない。
デジタル印刷機はオフセット印刷機よりも少ない人数で運用することができ、またオペレーターにそれほど高いスキルを必要としないことも、デジタル印刷の特徴のひとつに挙げられる。その結果、オペレーターにかかわる人件費を削減することが可能となる。
ここまではデジタル印刷の魅力について説明したが、オフセット印刷の方が優れている部分もある。例えば、画質はデジタル印刷の方が低めである。これは、トナーを採用していることが理由として挙げられる。しかし最近では重合トナーが広まり、また品質も改善されていることから、印刷物発注者に十分受け入れられる画質を実現することも可能となっている。
ランニングコストが高いことも、デジタル印刷の課題のひとつである。これは、デジタル印刷に必要不可欠なトナーが、各デジタル印刷機メーカーの純正品に限られているためである。また、課金体系がクリックチャージとなっていることもランニングコストが高くなる要因として考えられる。
デジタル印刷は、人件費や製版関連コストなどを削減できる一方、ランニングコストが高くなる。そのため、製版関連コストなどの削減効果で小ロットジョブに対する生産コストは低くなるが、ある印刷量を境にランニングコストの増加が効いてくるため、大きなロットのジョブでは逆に生産コストが高くなる。
この「境界線」が不明瞭なことも、デジタル印刷の課題かも知れない。しかし現在では、MISなど「境界線の見える化」を実現するためのツールも各種提供されている。
対応用紙のサイズや種類が限られていることも課題として挙げられよう。国内市場で広く使われている電子写真式デジタル印刷機では、対応用紙サイズはA3ノビまでが中心となっている。対応用紙の種類も、少しずつ増えてはいるものの、オフセット印刷で使っている用紙がデジタル印刷で使えるとは限らない状況となっている。そのため、既存のオフセット印刷ジョブをデジタル印刷で置き換えようとする場合、必ずしも実現できるとは限らない。
こうしたデジタル印刷の特徴を「長所・短所」としてまとめたのが以下の図である:
図1:デジタル印刷の特徴