本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。
業界の古い常識を変えていこう!
■EPSはやめるべきか
先日、とあるセミナーでアドビのスタッフの話を聞いていたときに、「配置画像にはEPS形式ではなく、ネイティブ形式を推奨しています」といった内容の話があった。そもそも最新のデジタルコンテンツについて語る内容のセミナーだったので当たり前といえば当たり前なのだが、セミナー終了後の質疑応答の際、「EPS形式は使わないほうがいいんですか?」といった質問に対して、アドビのスタッフが「EPSは使わず、ネイティブ形式を使用してください」と答えたとき、多くの参加者が驚いた顔をしていた。
正直、私自身はもう何年もEPSは基本的に使用していないので、多くの参加者がびっくりしたことに逆に驚いた。業界では、依然としてEPS形式が使用されているのは知っていたが、驚く人が多いということで、いまだにEPSを使用しなければならないと思い込んでいる人がいかに多いか、再認識させられたわけだ。
そもそもアドビは以前からEPS形式を推奨してはいなかったし、近年のセミナーなどでも、「ネイティブ形式を使用してください」とずっといってきていたはずだ。でも、現実にはなかなかEPSはなくならない。「EPSにしてください」という印刷会社が多いのも一因だろうが、逆になぜネイティブじゃダメなのか聞いても、「昔からそうだから」といった答えが返ってくるケースが多い。
では、EPSは絶対ダメなのかというと、そういう意味ではない。EPSを使用した際のエラーで最も多いのが透明機能を使用したことによる問題だそうだが、EPSを使用した際には透明機能を使用しないなど、EPSがどういったものなのかをきちんと理解して使用するのであれば問題はない。
そもそもEPSとは、Encap-sulated PostScriptの略で、カプセル化されたPostScriptという意味だ。PostScriptには透明という概念はないのだ。
これまでEPS形式を使用してきた人は、できれば今後はPSDやAIといったネイティブ形式、あるいはPDF形式(現在、Illustratorの中身はPDFベースとなっている)を使ってほしい。EPS形式のように、アルファチャンネルや透明の情報がなくなるといったこともないので、元画像と配置用の画像に分けて管理する必要もない。さまざまな意味で使い勝手も良くなるし、今後、新しいメディアへ展開する必要に迫られた場合でも、ネイティブ形式であれば対応しやすい。
■アウトライン化は必要か
EPS形式と同様、データ入稿する際によく聞かれるのが、「テキストはアウトライン化してください」という言葉だ。出力側に制作時に使用したフォントがなければ仕方がないとも思うが、そのフォントが埋め込み可能であるならばPDFで入稿すればいいのではないだろうか(EPS形式でもフォント埋め込みは可能)。
そもそもアウトライン化するということは、文字情報がなくなるため編集はできなくなる。また、ヒント情報も失われるため、小さな文字がつぶれやすくなるなどのデメリットもあるのだ。可能であれば、アウトライン化しないに越したことはない(ちなみにこの話はIllustratorの場合であって、InDesignにおいては基本的にアウトライン化はしてはいけない。アウトライン化するといろいろと問題が起こってくるので、タイトル周り等をデザイン処理するケース以外では使用しないほうがよい)。
アウトライン化は必ずしも悪ではないが、古い時代にフォントによる出力トラブルが最も多かったため、文字を図形化することでエラーを回避しようとした名残でもあると思っている。現在では、フォントを埋め込むことで、アウトライン化の必要性も減っているはずだ。業界全体で、無意味なアウトライン化をなくす方向に進んでいってほしいと願う。
■バージョンダウンはすべきではない
もうひとつ気になっているのがバージョンダウン。ファイルのやり取りをする際に、両者が同じバージョンのアプリケーションを持っていないと、バージョンを落としてやり取りするケースがあるのだ。バージョンが変われば、100%元の状態を再現できる保証はない。文字組み等が変わっても開ければよいというのであればいいが、実際にはバージョンダウンしたものを出力するといった話も聞く。安易にバージョンダウンが行われているケースも多いようなので注意してほしい。
本来、バージョンが異なれば文字組み等が変わってしまう危険性は絶えず付いて回る。これはドットリリース(小数点以下のアップデータ)のバージョンアップでも同じだ。バグを解消したことで、本来あるべき文字組みに修正され、文字組みが変わるケースもあるのだ。
ましてや、バージョンダウンでは、新機能に関する部分が再現されないのはもちろん、元の状態のまま開くことができなくて当たり前と思っていないと痛い目に遭う。
そもそもInDesignの古いバージョンでは、下位バージョンに落として保存することはできなかった。しかし、あまりにもユーザーからの要望が多く、現在ではバージョンを落として書き出す機能が追加されているが、本来、仕事を始める前にきちんと使用可能なバージョンを確認しておくべきであり、業界全体として、バージョンダウンしたデータのやり取りを防止する方向での意識改革が必要なのではないだろうか。
■進化に合わせ新しい変化に対応する
今回は、筆者が“改めてほしい”と感じている内容についてつづってみた。EPSやアウトライン化が必ずしも悪いというわけではなく、なぜそのようなことを行ってきたのか、その理由をきちんと理解し、OSやアプリケーションの進化に合わせて変えていくべきところは変えていったほうが、作業効率をアップすることもできるし、新しい変化にも対応していけるはずだ。
今後、電子書籍の広がり等もあり、ウェブやその他の業界との垣根もますます低くなっていくはずだ。いずれ画像もRGBで運用するのが当たり前になるだろう。これまでの概念にとらわれず、可能な範囲で新しいワークフローを導入していきたい。
(2011年9月号 プリバリ印より)