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東日本大震災の影響は甚大だが、影響徐々に薄れる
中小・中堅印刷会社の2011年上半期
JAGATの印刷業毎月観測アンケートによると、2011年上半期の中小・中堅印刷会社の売上高は前年比2.5%減だった。2011年は当初、リーマン・ショックから2年で影響が抜け始めていた。1月+0.9%、2月-0.9%と、ほぼ前年同水準で推移、3月も東日本大震災までは順調だった。
大震災の3月以降、売上高は3月-3.3%、4月-3.9%、5月-2.2%、6月-5.5%と、-3~-5%台での推移と落ち込んだ。3月は大震災にも関わらず-3.3%だったから、震災がなければ1月以来の前年比プラスも期待できていただろう。6月のマイナス幅が大きいのは前年に衆院選があった反動減だ。
2011年上半期の受注件数は-1.4%だった。売上高の減少幅(-2.5%)が受注件数の減少幅(-1.4%)より大きいのは、小ロット化、低価格化などの影響と思われる。
大震災の影響は徐々に抜ける
震災後、特に首都圏以北での需要低迷が続いている。首都圏は一時期の大幅落ち込みは終えたようだ。生産が緊急避難的に西日本に移ったような局面は既に終えた。
自粛ムードが長期化、企業が広告出稿を大幅に抑制、各種イベント等の延期や中止が相次ぎ、製品別では商業印刷への影響が最も大きかった。
ただし、3月に前年比-27%と大幅に落ち込んだ折込チラシの出稿枚数は6月には-2%まで戻るなど、一部足元では急速な需要回復の兆しも散見され、震災の影響が薄れ始めている。
資材料の購入額前年比をみると、用紙・インキ等の仕入額はおおむね売上高前年比を下回る水準で推移している。設備投資意欲は、震災を経てもあまり落ち込んだ形跡は見られない。震災前からもともと抑制気味であり、現時点で投資意欲に大きな影響を与えていないようだ。
上場印刷会社22社の2010年度業績
決算短信によると、2010年3月決算だった上場印刷会社の業績は、売上高3.7兆円(前期比0.8%増)、経常利益は1196億円(13.0%減)だった。特に大手2社で電子系の需要回復が著しかったことが業績貢献している。
22社のセグメント別の概況をみると、電子系が成長を回復、包装・パッケージなど生活系は比較的堅調、商業印刷、出版印刷といった情報系が回復の遅れといった構図になっている。
2010年度はDPS(デジタルプリントサービス)が初めて減少したようだ。大日本印刷、凸版印刷、共同印刷などが揃って減少や不振とした。デジタル印刷についても事業領域全般が拡大しているわけではない。
上場印刷会社22社の2011年度見通し
上場印刷会社22社の2011年度見通しを総合すると、売上高3.6兆円(前期比1.2%減)、経常利益1,153億円(3.5%減)となっている。電力需給の不安定さ、資源価格高騰、世界経済の下振れリスクなど不透明要因が多く、慎重な見方が多い。
今後の取り組みや課題には、ソリューション、ワンストップサービス、電子書籍やコンテンツといったキーワードが目立つ。また、印刷とデジタルのハイブリッドを目指すスタンスが増えた。
紙の書籍・POD・電子出版コンテンツなど、ハイブリッド制作体制を構築する(大日本印刷)。出版印刷関連では、業界全体の活性化提案を継続する一方、デジタルコンテンツ流通サービスへの取り組みを強化(凸版印刷)。
従来事業は合理化、効率化を追求し、印刷ビジネスで蓄積したノウハウをベースに新規事業で成長性を求める戦略が多い。また、共同印刷や光陽社など思い切ったリストラに踏み切った印刷会社の業績回復も見られる。(研究調査部 藤井建人)