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電子書籍の配信には、コンテンツをダウンロードする方法と、クラウド型とも言われるネットワーク上でストリーミングする方法がある。今後のマーケットを考えると、ダウンロード型とクラウドサービス型とのサービス競争という側面もある。
■フォーマット乱立が電子書籍普及の妨げになった?
先ごろ、「アマゾンが年内にも国内での電子書籍ビジネスに参入する。大手出版社と交渉中で、近々に契約する見込み」という報道があった。それを受けて、一般紙やTVニュース等でも電子書籍が取り上げられることが増えている。
その際の論調は、次のようなものである。
「結局のところ電子書籍の普及は進んでいない。普及を妨げている犯人は、電子書籍フォーマットや電子書店の乱立である。アマゾンの参入によって大きな進展が期待される。」
期待されたほど普及が進んでいないのは事実だが、いろいろな要因が複合的に加味されたものだろう。また、技術的な制約というよりは販売戦略やマーケティング面の問題だと考えられる。
■電子書籍フォーマットはマルチ・アウトプット環境へ
一般書籍や文芸書のフォーマットとしては、画面サイズと文字サイズに応じてページサイズが可変となるリフローモデルが適している。国内で、リフロー型フォーマットの代表的なものは、ドットブック、XMDFがある。また、国内外の主要ITメーカーが参加しているIDPFは、縦組みにも対応したEPUB3の規格を2011.10に確定した。
結論的にいうと、電子書籍のフォーマットはハードウェアやOS上の制約ではなく、ビューアーレベルで吸収できるもので、大きな問題にはならない。
かつてのVHSとベータマックスやBlu-ray Disc・HD-DVDなどのビデオ規格は記録メディアの物理的な構造やハードウェア自体が異なっていた。それに対して、電子書籍フォーマットは、対応するビューアー(DRMを伴う)が用意されるかどうかの問題である。さまざまなハードウェア用にビューアー環境が用意され、複数端末からのアクセスが許諾されていれば、ハードウェアを超えてコンテンツを閲覧することが出来るようになる。
海外で言うと、アマゾンは独自フォーマットながら、このようなマルチハードウェア環境を実現している。国内でも、一部の配信サイトで着実にこのような環境が出来上がりつつあると言えるだろう。
■クラウド型サービスとストリーミング方式
電子書籍の配信には、コンテンツをダウンロードする方法ではなく、ネットワーク上でストリーミングする方法もある。最近ではクラウド型と言われることもあるが、常時オンライン接続が必要となる。ある意味では、通常のWebブラウザに近いとも言える。
日経新聞や朝日新聞のデジタル版などは、いずれもこの方式である。定期購読契約者がログインすると、Webブラウザや専用のリーダーアプリ経由でコンテンツにアクセスし、閲覧することができる。複数種類の端末からでもアクセスできる。
コンテンツ提供者から見ると、多種類の端末への対応が容易であること、購読者の管理が一元化しやすく不正コピー対策が比較的容易など、メリットが大きい。
購読者から見ると、常時接続が必要という条件が最も大きな制約となるが、利便性も大きく、双方にメリットがある。
ストリーミング方式の場合、配信フォーマットはあくまで提供者側の内部フォーマットでしかない。また、コンテンツ内にDRMの仕組みが内蔵されるのではなく、アクセス権限でDRMを行うということである。
また、Googleなどの検索機能は使用できない代わりに、提供者側で検索機能を用意することが必要になる。
iPad版の産経新聞や雑誌サービスのビューン、MAGASTOREなどは、専用アプリがバックグラウンドでダウンロード・閲覧を行う方式であり、折衷型と言うべきだろう。
総合的に言うと、ストリーミング方式は、サーバー環境を構築するなどコンテンツ提供者側の負担は大きいが、大規模なユーザを抱えるプラットフォーム企業には有利な環境と言える。
Google社の「Google eBookストア」は、当初からクラウド方式でブラウザから閲覧する方式の採用を公表していた。国内でのサービス開始時には同様の方式となるだろう。
アマゾンから、この8月に発表されたKindle Cloud Readerは、同様な方法でウェブブラウザから電子書籍を閲覧・購入する仕組である。
また、ボイジャー社は「Books in Browsers」という名前のクラウド方式を先般発表している。
ダウンロード方式はパッケージ販売に近い考え方であるが、クラウド型・ストリーミング方式はサービス提供に近いものである。
今後の電子書籍マーケットを考えると、フォーマットの影響はそれほど大きくないのではないか。むしろ、ダウンロード型とクラウドサービス型とのサービス競争という側面もある。
(JAGAT 研究調査部 千葉 弘幸)