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ソーシャルビジネスが注目を集めている。ソーシャルビジネスとは、社会的問題の解決を目的として収益事業に取り組むことをいう(Wikipedia、「社会的企業」の項、2011年11月14日)。ソーシャルビジネスは多くのボランティア活動のように、寄付金や補助金に大きく依存しない。最大の目的はミッションの達成であり、営利活動として利益追求を最大の目的としない。ミッションをステークホルダーと共有しながら多くの賛同者を得て活動を進める点に特徴がある。
政府はソーシャルビジネスを以下のように定義する。「ソーシャルビジネスは、ビジネスの手法で社会的課題を解決する手法」 。経済産業省ではウェブサイト「ソーシャルビジネス・ネット」や、事例集「ソーシャルビジネス55選」で事例を紹介するなど、その活動を後押ししている。子育て支援や障害者支援、環境保護、ホームレスの増加、過疎化など、社会的問題は日々複雑化し、政府・自治体やボランティアの活動だけでは対応しきれない問題が増えている。そこで、ビジネスの手法で解決する手法への期待が高まっている。
ソーシャルビジネスとしての認識や公言の有無はともかく、既に多くの印刷会社がソーシャルビジネスに取り組み、いまなお取り組みは増えている。印刷会社は地域の情報加工の担い手として地域との結び付きが従来から強く、たとえば地域活性に取り組む印刷会社は多い。収益性の高さは期待できなくても、誰かがやらなければならない、放置できない案件は常にある。そもそも自社の繁栄の前提には地域社会の繁栄がある。長期的な自社の存続と地域社会の発展を同義に捉えて考えるのはごく自然なことであろう。
そこで、皆がハッピーになって自社もハッピーになれるソーシャルビジネスのスキームをどう考えるかだ。現在「子どもの夢まで被災させちゃいかん。」を合言葉に準備が進む「らくがきアート公募展」 は、東日本大震災の被災者の子どもたちが描いた200点以上のらくがきをベースにアートに仕上げるアーティストとクリエイターを募集している(12月30日まで)。集まったアートの展覧会を各地で開くほか、作品はカレンダーや年賀状などに商品化、収益は日本財団ハタチ基金に寄付、作家へも分配、印刷会社が協賛するスキームだ。
印刷産業青年連絡協議会は、印刷産業だからこそできる被災地支援「えほんとてがみプロジェクト」 を通して作った絵本作家ちくいこずえ氏による絵本『おえかきかきかき』 の販売を開始した。絵本を購入した親子と被災地の親子をつなぐことで、親子の会話のきっかけとなり、子どもたちの人を思いやる気持ちを育み、書く経験を提供することが目的だ。絵はがき4枚が同梱されており、被災地へのメッセージを添えて投函できる(第一弾は11月30日まで)。投函された絵手紙は印刷加工してから被災地へ贈られる。
こうしたケースは被災地支援に端を発した取り組みの例だ。一つのミッションのもと、多くのプレイヤーと賛同者ネットワークをつくり進めるソーシャルビジネスでは、情報加工や情報発信のノウハウ、地域とのつながりが豊富な印刷会社が中核的存在として期待されることが少なくない。ソーシャルビジネスなどの取り組みを増やすと、需要はあとから派生的に生まれていくだろう。従来の印刷営業に留まらず、印刷を社会的課題の一解決手段に位置づけると印刷会社の事業領域はまた一つ広がる。
(JAGAT 日本印刷技術協会 研究調査部 藤井建人)