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電子書籍元年を経て迎えた2011年。年初は近年としては堅調に始まったものの、未曾有の大災害に見舞われ印刷業界への影響も甚大だった。現時点で電子書籍による印刷メディアの影響は限定的だが、変化は確実に進むだろう。2011年の状況を振り返る。
■2010年:リーマン・ショックの影響が印刷市場からも薄れる
現時点で「工業統計」は4人以上事業所に限定した印刷産業出荷額を公開しており、2010年は3.4%減の5.96兆円と大台の6兆円台を割り込んだ。3人以下事業所の構成比は2%前後のため、印刷産業の出荷額全体としては6兆円前後だったと考えられる。2010年はリーマン・ショックで未曾有の落ち込みを記録した2009年の流れを引き継いで始まった。春先にかけて景気が持ち直す過程では、印刷会社の売上高も徐々に下げ幅を縮めた。ところが5月にギリシャの財政赤字粉飾による欧州発の信用不安、7月の参院選で与党惨敗による政局の混迷を経て、景気が失速するとともに印刷会社の売上高も再び軟調さを増した。しかし2008年9月のリーマン・ショックから丸2年以上が経過すると、一時はJAGAT調べの印刷会社売上高は26カ月ぶりのプラスを記録するなど、年末にかけて底打ちの機運を見せていった。
■2011年:円高、東日本大震災、欧州金融危機、タイ大洪水などマクロ環境悪化の影響続く
2011年は、1月、2月と売上高は比較的堅調に推移した。首都圏折込広告の出稿枚数は2011年2月まで5カ月連続のプラスで推移するなど、印刷市場の主力といえる商業印刷市場は底打ちの気配を感じさせていた。東日本大震災は、景気がようやくリーマン・ショックの傷から回復しようとしていた矢先に訪れた。印刷業界の被害は阪神淡路大震災をはるかに上回った。設備の損壊など震災の直接的な影響に、燃料や紙、インキなど原材料の調達難によるサプライチェーン寸断といった事後的な影響が加わった。製紙産業は国内用紙生産の11%を東北6県に頼っていたため、特に震災の影響が大きかった。いうまでもなく東日本の印刷会社が大きな被害を受け、その影響は月を追って薄れた。しかし夏にギリシャ発の欧州金融危機本格化、秋にタイの大洪水が起きて国内経済も景気後退が現実味を帯びる状況下、印刷需要はおおむね年末まで抑制されたまま推移した。
■2011年:景況感、印刷会社経営者の声
年初は「少しずつマシになってきた」、「久しぶりに前年比100%をクリアした」、「新規受注のスポットがあり、売上が伸びました」といった声が散見され、市況回復の近さを期待させた。しかし東日本大震災の直後は、「印刷用紙がない、インクがない」、「用紙インキなど材料が品薄」という訴えが急増した。資材料のサプライチェーン回復が進むに従い、「自粛ムードはやわらいできた」、「代替品を使わないといけないので売り上げの割に材料費が増えています」、「印刷資材も落ち着きが見え始めた」との声が増えた。夏に向かっては、「エコを意識した販促が目立つ」、「節電やサマータイムで顧客の稼働日がバラバラ」と、節電に関する声が増えた。秋を迎えると、「夏場より仕事が戻ってきた」との声も見られる一方、「用紙の価格が上がってきた」、「株式市場の低迷で一般消費者の購買意欲が低迷」、「復興需要を期待していたが予想外れ」と、景気回復の遅れへの失望感や資材料価格上昇への懸念が目立つようになった。
■2011年:主要印刷製品動向
広告市場は夏以降回復に向かったが、11月までの段階で印刷市場への波及は限定的だった。折込チラシは震災直後に急減も9月には7カ月ぶりに回復、集客に即効性あるメディアとして根強い支持のあることを裏付けた。出版市場では、書籍が震災にも関わらず前年比±0前後で堅調に推移したのに対し、雑誌は震災に関係なく例年同様に低調に推移した。“電子書籍元年”だった2010年の翌年として注目された2011年だったが、書籍については電子書籍の明確な影響は見られない。印刷製品のなかで回復を主導したのは包装印刷だ。生活必需品に密着する印刷物なので景気変動に関わらず比較的安定した需要がある。雑誌はインターネットの影響を長期的に受け続けているが、書籍は現時点でデジタル化の影響がなく、折込チラシは景気の影響を受けている。同じ印刷メディアでも何の影響を受けているかは製品別にそれぞれ異なる。
■2011年:トピック、日本のものづくり、日本の印刷技術
2011年10月、技能五輪ロンドン大会の印刷職種で日本代表の伊東真規子選手(亜細亜印刷)が金メダルを獲得した。同社の藤森英夫社長はJAGATでの講演(2010年12月21日)で、「大手に引っ張ってもらうだけでなく、中小企業による押し上げもできれば」と本大会への抱負を語っていたが、見事に金メダルでその抱負を実現した。前回2009年カルガリー大会は菊池憲明選手(凸版印刷)が金メダルを獲得していたので、日本の印刷職種は技能五輪2連覇で日本の印刷の定評の高さを裏付けてくれた。2007年沼津大会は鈴木康弘選手(凸版印刷)が6位入賞を果たしており、日本は3大会連続の上位入賞だ。次回2013年ライプツィヒ(ドイツ)大会に向けた日本代表の座は誰が手にするか、まずは今後の国内予選の行方に注目が集まる。
■2012年に向けて:経済見通しの概要と印刷市場の関係
欧州の金融危機は依然として波乱含みの状況が続き、新興国経済も一時の高い成長性は失いつつあって、世界経済の景気後退リスクは高まっている。成長性を海外市場に求める日本経済はこうした外的要因の影響を受けやすいうえ、一層の円高が進めば生産拠点の海外移転による国内空洞化の懸念も高まろう。2012年日本経済の成長性は1%台後半との見方が有力で、引き続き日本経済に力強さは求められない。政府は2010年12月復活のエコカー減税を皮切りに景気刺激策の復活を始めた。印刷会社経営は経済成長に期待することなく、既存事業の合理化と成長事業の模索を続けるスタンスが望まれる。
■2012年に向けて:印刷市場周辺と印刷会社経営
2011年はIGAS2011で従来型オフセット印刷のさらなる合理化提案や、デジタル印刷進化の方向性が示された。2012年は5月のdrupa2012でもう一段踏み込んだ印刷ビジネスの方向性が示されるだろう。中小印刷会社の営業利益率は平均1%台に低下し、抜本的な経営構造改革の必要性が高まっている。2011年は株式公開印刷会社で一定規模の人員リストラがいくつか見られ、リストラを終えた会社が収益性を回復、経営資源を再配分して成長性を求めていく例が見られた。印刷会社ならではの地域活性に取組む印刷会社も増えてきた。顧客企業や地域経済の成長に頼るのではなく、顧客企業や地域経済の成長を支援するようなソリューションプロバイダーのスタンスが2012年も増えていくと思われる。
※ソリューションプロバイダーとは…顧客視点で特定メディアに偏ることなく、地域や顧客などの課題や困りごとに最適なメディアや手法の組合せによる解決を提供する存在。
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2012年2月9-10日開催 PAGE2012カンファレンス
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