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「2 人に1 人はスマホ」という時代が近づき、どこでも気軽に情報検索できるスマートフォンの活躍機会が増えた。例えば旅行に出かけるときに地図やガイドブックを持たなくても、その場で必要な情報を調べることができるようになった。
観光地でも、旅行客のニーズに合わせてスマートフォン向けの情報提供を強化したり、スマートフォンと相性がよいAR(拡張現実)を活用した取り組みを進めている。
AR には、ビジョンベースと呼ばれる、パターン画像や実際の商品・空間を認識する方式と、スマートフォン・タブレットに搭載されているGPS・電子コンパスによって位置を特定するロケーションベース方式がある。
ロケーションベースのAR としては、セカイカメラというアプリが有名である。スマートフォンを通して見た現実の風景に、ユーザーが投稿した文字や画像、店舗情報などが吹き出しやアイコンとして現実に浮かんでいるかのように表示される。
ビジョンベース(特にマーカーと呼ばれる画像を読み取るタイプ)は、名刺やチラシに印刷するなど紙媒体と組み合わせた使い方をされることが多く、印刷業界にとっても馴染みが深い。一方ロケーションベースは、現実に「今いる場所」に紐付いて情報を表示することから、人が移動するゲームや観光などの場面で利用されることが多い。
ロケーションベースAR を使ったアプリを観光ガイドとして活用している自治体がある。秋田市で2011 年に導入された「おもてナビ」は、「おもてなし」と「ナビ」を組み合わせた造語として名づけられたアプリである。観光ルート案内や音声ナビゲーションなど街歩きに役立つコンテンツを提供する。
秋田市を訪れた観光客にアプリを起動してもらい、市内でスマートフォンをかざしてもらう。すると、近くにある観光スポットまでの道案内や見所、土産物屋の情報などが表示される。端末をかざした時に取得した位置情報に合わせてコンテンツを表示する仕組みだ。スペースや設置コストなどの問題で実際には看板に表記することが難しい外国語も、AR コンテンツであれば表示できることも利点の一つである。
秋田市では中国や韓国からのツアーを受け入れており、外国人が観光しやすい環境づくりを進めている。
広島市の広島平和記念公園でもロケーションベースAR を活用したアプリを提供している。同園では、原爆ドームや慰霊碑といったモニュメントが有名だが、知名度の高いもの以外にも、数多くの石碑が建っている。
訪れた人に対して、見落とされがちなモニュメントにも目を向けてもらうために、46 の記念碑の情報や動画が表示される観光ガイドアプリの運用を2010年より開始した。公園周辺でスマートフォンをかざすとモニュメントの情報や現在地からのルート、動画が表示される。アプリの提供を開始したことで、来園者が園内のモニュメントについてより深く知ってもらうことができるようになった。
AR を用いる利点は、スマートフォンサイトへ誘導できる点以外にも、ユーザーが情報をどのくらい表示したか、訪問は何回目か、どの曜日・時間帯が多いかなどのログ情報が取得できる点にある。
印刷会社は観光に関わるパンフレットや案内地図、販促グッズなどの制作に携わる機会も多い。紙とAR を組み合わせたサービス展開は、印刷会社が手掛ける新しい分野として今後活用できる可能性がある。
(『JAGAT info』2013年5月号)