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産業再生機構で数々の企業再生の修羅場を経験した冨山和彦氏は、現場の力が日本企業を支えてきたことを評価する一方で、マネジメントの弱さが日本の会社と社会を腐らせている現状に警鐘を鳴らす。【JAGAT大会・特集1】
『会社は頭から腐る』(冨山和彦著、2007年刊)を読んだ。帯には眼光鋭い著者の顔写真があって、「真剣勝負で『負け』を経験した人をトップに任命せよ! 産業再生の請負人が提言!」とある。
プロローグの書き出しは「経営や企業統治を担う人々の質が劣化しているのではないか」とあって、著者が誰に対して何に対してカツを入れようとしているのかがよく分かる。
著者はボストン・コンサルティング・グループを経て、コンサルティング会社「コーポレイトディレクション(CDI)」の設立に携わり、2001年にCDIの社長に就任。日本リースやアキヤマ印刷機械の再建などを手掛けた。その後、産業再生機構のCOO(最高執行責任者)を務め上げ、2007年には株式会社経営共創基盤(IGPI)を設立し、コンサルティング・企業再生の最前線で活躍している。
本書が発刊された2007年7月時点では、日本は好景気にあるとされていた。「しかしこれは、ひとまずの対処療法と海外特需という外的要因によるところが大きい。(中略)バブル経済のあたりから、日本をダメにしてきた問題はもっと根本的で深刻なものであり、日本経済、そして多くの日本企業は本質的な解決策を見出していない」。
本質的な問題を先送りする日本経済、日本企業のあり方に対して、「しっかりしたリーダー、真の経営人材を真剣勝負の修羅場で鍛え、つくり直さなければならない」と問題提起する。
2007年10月をピークに景気後退期に入り、特に2008年9月のリーマン・ショック以降、世界的な消費低迷や急速な円高の進展に、日本経済は大きな痛手を受けた。そして、景気回復の兆しがようやく見えてきたところへ東日本大震災と福島原発事故が起こった。
3.11以降、それ以前の枠組みは意味をもたなくなったと言われている。しかし、このような社会全体の大きな変化があっても、本書の問題提起は古くなってはいない。いやむしろ色鮮やかになっている。
企業再生の現場で多くの経営者を見てきた著者は、「人はインセンティブと性格の奴隷」であることを実感し、性悪説でも性善説でもない、「性弱説」に立って人間を見つめる。
「ほとんどの人間は土壇場では、各人自身の動機づけの構造と性格に正直にしか行動できないという現実」を見据えて、「どう対処すれば『弱さ』を克服して、組織の腐敗を防げるのか、さらには弱さを強さに転化して、企業体として『強い』集団となし得るのかに経営の本質的な課題がある」とみている。
その上で、企業組織の強さの根源は「動機づけられた現場人材たちが、こまごまとして職務規定や指示命令なしに、自発的な創意工夫や相互補完で臨機応変に目的を達成していく力にある」ことから、日本企業を支えている「現場力」に着目する。
カネボウの再生にあたった著者は、カネボウ化粧品の強さはブランド力ではなく、販売員の力であると気付く。「厳しい状況になっても、彼女たちは一糸乱れぬ忠誠心、団結心で頑張った。だから、あれほどの状況になっても、カネボウ化粧品は売上げをまったく落とさなかったのである」。ところが、厳しい経営局面になると、まず現場の人が減らされるという現実がある。
護送船団方式が通用しなくなったと言われて久しいが、今でも「困ったことが起きると、競争相手は何をしているのかと聞く。あるいは、役所は何といっているのか、銀行はどういう意見か、君はどう思うのか、と聞いて、聞いた話を四つ足して四で割るような手だてを打つ」経営者が多いことに、冨山氏は苛立つ。
「マネジメントは自分の意思と言葉を持っていなければならない。自分の頭で考えて、自分の意思で勝ち抜こうという人間でなければ、本当に厳しい状況で正しい解を創出できないし、おそらくは厳しい施策となるその解を断行しようとしても、現場がついてこない」。
しかし、「会社は頭から腐り、現場から再生する」のだ。
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■関連イベント「JAGAT大会2012 」
2012年6月22日(金)東京コンファレンスセンター・品川にて開催決定!
特別講演には事業再生のプロ 冨山和彦氏を招聘!
・日本経済の現状に関して経営者として覚悟しておくべきこと
・マネジメントに求められる人間的な強さ、コミュニケーション能力
・「捨てる意思決定」がなぜ必要か
・米国型の株主主権モデルと日本型のカイシャモデルをどう捉えるか
・新しいガバナンスのあり方とは
・印刷会社に贈る未来へ向けたメッセージ
など、冨山氏には思う存分語っていただきます。どうぞご期待ください。