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デジタル化、小ロット化、雑誌収益減で迫られる構造改革
■東日本大震災の影響と出版メディアの有用性
東日本大震災は出版市場にも大きな影響を及ぼした。各社は一定のリスクマネジメントを用意していたものの、震災の規模は想定をはるかに上回った。とくに津波の被害によるガソリン等燃料の不足は深刻で、配送面では出版界初の隔日配送を余儀なくされた。今回の震災を通して燃料の備蓄も含めた新たなBCPの策定を考える必要が明らかになった。
現在は被災県書店の販売が好調であるという。震災写真集や震災特集などが動いている。当時、被災地の方々はテレビを見ることができなかったこと、時間が経って当時を振り返れるようになったこと、支援へのお礼などで使われていることなどが要因と言われる。これは阪神淡路大震災時も同様だった。災害は悲惨を極めたが、後世に伝える意義もあり、きちんとした整理編集を経て保存された情報には価値のあることが分かる。
■雑誌収益への依存体質から構造転換の必要
従来型の出版市場は縮小し続けていて、特に雑誌はピークだった1995年の45%規模になった。2011年のデータを見ると書籍は下げ渋りつつあるものの、雑誌が下げ止まらない。
出版業界を構成する書店・取次・出版社は、雑誌販売の収益に依存してきた。書籍は薄利であるうえ多品種少量で手間が掛かり、小ロット化が進んだことも手伝って、利益を出すことが極めて難しい商品だ。いわば、雑誌販売の利益で書籍販売の赤字を補う内部補助により出版業界は成り立ってきたのである。そこで、40%近くに高止まりした返品率を改善して物流効率を高めるべく、2010年から送品数抑制などが具体的に取り組まれている。しかし物流合理化は一策に過ぎない。抜本的には雑誌に期待できないなら、書籍で経営に必要な収益を得る仕組みに業界全体を転換させる必要があるだろう。
■我が国出版業界はなぜ書籍で利益が出ないのか
なぜ我が国出版業界は書籍で収益を得られない構造なのか。これを考えるには他国との比較が有用だ。例えば再販制度がなく書籍の価格決定権を書店が持つドイツである。
欧米の書店は日本のように雑誌と書籍の混合販売でなく、基本的には書籍しか扱わない。雑誌は書籍より新聞に近いメディアの扱いだ。
ドイツは日本のように仕入れた書籍を返品できる委託制度でない。発注時に精査して買い切り仕入れするため、書店は売れ残りリスクを負う分、高い粗利益率を得る。また、書籍の赤字を雑誌の利益で補う内部補助がなく、書籍だけの採算性を求めてきたのでもともと価格設定が日本の倍近い。
■ドイツ出版業界「55のテーゼ」
返品率低減を目指すよりは、委託制度から買切制度へ移行し、返品物流そのものをなくすことが理想だろう。各社レベルでこうした抜本的な構造改革が少しずつ検討され始めているようだ。
ドイツの図書流通連盟は2011年6月に2025年の出版業界予測「55のテーゼ」をまとめた。書籍・雑誌・新聞は売り上げが25%減る、書店店頭売り上げは31%減る、売り上げが減るので空いたスペースに新しい商品を置かねばならない、といった予測と将来像が示されている。
AAP(米国出版社協会)による2011年上期の書籍出荷額は書籍が22.9%の大幅減少だ。米国書店2位ボーダーズ破綻の影響もあろうが、これだけの大幅減少は電子書籍普及の影響も可能性は排除できない。今後の動向を冷静に見守りつつも、米国のデジタル化は想像以上に早いとの見方が有力で、いずれにせよ構造変革の準備は進めなければならない。
2011年11月29日 プリンティング・マーケティング研究会ミーティング「出版ビジネスと出版社の最新動向2011」星野渉氏講演より (研究調査部 藤井建人)