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経営者とは「最終的な責任を取る人間」を意味する。ベストを尽くせなかった社員に対して、「経営者としてそれは自分の責任だから、詫びる必要はない」と言えるリーダーこそが「真の経営者」である。【JAGAT大会・特集3】
『IGPI流 経営分析のリアル・ノウハウ』(冨山和彦・経営共創基盤 著)を読んだ。2007年刊『会社は頭から腐る』で、日本企業のマネジメントの弱さを指摘した、冨山氏の最新刊だ。
人間性がモロに出る「再生の修羅場」では、頭でっかちな戦略コンサルタントが信じている「合理」は通用しない。
『会社は頭から腐る』で冨山氏が展開するのは、経営戦略というよりも、経営哲学と呼ぶべきものだが、
・経営で重要なのは「合理」と「情理」の両方を捉えること
・人の行動の背景にあるインセンティブを理解すること
という、普遍的な真実にたどり着く。
そして、正答のある問題にしか答えられないエリートでは、「本当に厳しい状況で正しい解を創出できないし、おそらくは厳しい施策となるその解を断行しようとしても、現場がついてこない」と、マネジメント層の人間力を立て直す必要性を説く。
冨山氏は、ボストン・コンサルティング・グループ、コンサルティング会社「コーポレイトディレクション」社長、産業再生機構のCOO(最高執行責任者)を経て、2007年に経営共創基盤(IGPI)を設立した。
IGPIは、企業経営の様々な局面で「本当に役に立つ」プロフェッショナル集団となることを目指して、企業価値・事業価値を粘り強く「共創」していくことを使命としている。
「IGPI流経営分析」とは「会社が生きるか死ぬかの修羅場や経営改革の現実の成果を出さねばならない状況で、真剣勝負の経営分析をやってきたプロフェッショナル」による「シビアな経験に基づいた、リアルな経営分析の方法論」になる。
「世に経営分析や財務分析の本は山とある。そのほとんどに正しいことが書いてあり、そこで示されている分析の手法や指標は、会社や事業を理解するうえで有効なものである。その一方で、世の中に出回っているアナリストのレポートや、業界専門誌の経営分析、あるいはM&Aなどに関連して調査会社やコンサルティング会社が請け負ってつくる、財務デューディリジェンス(DD)や事業DDの報告書には、あとで読んでみるとかなり『イタイ』内容のものが少なくない」という問題意識から本書は生まれた。
経営者だけでなく、一般のビジネスパーソンにとっても「リアルな経営分析力」が求められる局面は少なくない。「自分が勤めている会社は大丈夫か?」「取引先は大丈夫か?」と考えたことはないだろうか。本書を読み込むだけで「リアルな経営分析力」が身に着くものではないが、教科書的な経営分析の手法から一歩進んだ、より実践的な経営分析の基本が身に着くことは間違いない。数字が苦手なタイプでも、数字の裏に見えるものを考えることで、苦手意識が払拭されるだろう。
37項目にまとめられた「IGPI流チェックポイント」も示唆に満ちている。気になった項目を幾つか紹介したい。
・儲かっているビジネスこそ要注意。運と実力を冷徹に見極めよ。
・単価と数量を掛け合わせれば売り上げがわかる。売り上げを1日、1店舗、1人あたりに細分化すれば具体的な姿が見えてくる。
・PLで全体のストーリーをつかみ、BSでそれを確認する。どんなヒト、モノ、カネ、業務プロセスが絡んでいるかを、PLとBSからイメージ化できると「勘」が働きだす。
・単品管理を徹底すれば、どんぶり勘定の余地がなくなる。たいていの問題はそれで解決できるはず。
「ベストの環境でなければベストが出せないからベストの環境を用意しろ」というのは、ビジネスの現場を知らない子どもの言い分だ。ビジネスの現場では限られたリソースでベストを尽くすことが求められる。そして、その結果に対して、当事者としてそれ相応の責任を負うことになる。
あらゆる失態を他責的な言葉で説明する評論家的な幹部や、できない理由だけを延々と語る幹部、あるいは誰に信認されなくても自分で自分を信認すれば足りるとするような幹部が、組織を蝕んでいる。
経営者とは「最終的な責任を取る人間」を意味する。ベストを尽くせなかったことに責任を感じる社員に対して、「経営者としてそれは自分の責任だから、詫びる必要はない」と言えるリーダーこそが「真の経営者」である。
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■関連イベント「JAGAT大会2012 」
2012年6月22日(金)東京コンファレンスセンター・品川にて開催決定!
特別講演には事業再生のプロ 冨山和彦氏を招聘!
・日本経済の現状に関して経営者として覚悟しておくべきこと
・マネジメントに求められる人間的な強さ、コミュニケーション能力
・「捨てる意思決定」がなぜ必要か
・米国型の株主主権モデルと日本型のカイシャモデルをどう捉えるか
・新しいガバナンスのあり方とは
・印刷会社に贈る未来へ向けたメッセージ
など、冨山氏には思う存分語っていただきます。どうぞご期待ください。