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地域で事業を営む企業と連携しながら地域貢献活動を続けている印刷会社をご紹介します。【印刷会社と地域活性化 (7) 】
地域で事業を営む企業と連携しながら地域貢献活動を続けている印刷会社がある。紙やウェブはもちろんのこと、イベントの開催から物品販売、地元の特産物を使った商品開発まで、さまざまな手法を交えながら地域の活性化に取り組む株式会社共立アイコムの小林武治社長にお話をうかがった。
30年以上続く地域貢献活動
ウェブ制作やデジタルサイネージ、AR(拡張現実)やアプリ開発などのIT関連と、マーケティング支援などを組み合わせ、顧客のベストパートナーをめざして首都圏や静岡県で事業展開するのが株式会社共立アイコムだ。2011 年1月に旧社名の共立印刷から共立アイコムに社名変更し、「印刷物」にとらわれない顧客支援に取り組んでいる。
共立アイコムは、1954年2月に静岡県藤枝市で設立され、出版印刷や商業印刷を中心に発展してきた。30 年以上前から地域貢献活動に取り組み、地域の画廊や展示スペースの案内、作家紹介や美術館の展示案内を掲載したフリーペーパー『ギャラリー』の発行や、地域の文化人をスピーカーにした文化講座を開催するなど、地域の文化振興に協力してきた。『ギャラリー』は7 年前に惜しまれつつ廃刊となるも、最後の企画展には大勢の地域住民が訪れ、盛大な幕引きとなった。現在はウェブ版『ギャラリー』の復活を企画中だという。
「フリーペーパーの発行や文化講座を開催し続けるなかで、企業として地域貢献の必要性を感じた」と小林武治社長はいう。
立場を超えた協力体制で静岡を盛り上げる
『ギャラリー』廃刊から数年後、異なる新聞を扱う3つの新聞販売店とともに、地元・静岡県志太エリア(藤枝市・焼津市)の情報を掲載したフリーペーパー『むるぶ』(月刊、8.2万部発行)を創刊した。「読む・見る・遊ぶ」をコンセプトに、情報誌の枠を超えて行政と連動して豊かな地域をつくることが目的だ。このように異なる新聞を扱う販売店と共同でフリーペーパーを創刊したケースは全国でも非常に珍しいという。
そのほかにも、アメリカの新聞に三行広告が多いことからヒントを得た無料の広告サイト『三行法師』も開設した。現在、「静岡地区版」、「しだはい版」、「掛川地区版」の3つを展開しているが、そのうち「掛川地区版」はライバルの広告代理店が運営しているという。「ユーザーが身近な情報を手軽に発信することで静岡が盛り上がればいいと思ってつくったサイト。考えに共感してくれるならライバル企業であろうと関係ない。手をあげてくれる所にはシステムを開放したい」
地元の特産物を知ってもらうために
共立アイコムが手掛ける地域貢献事業のなかにはユニークなものも多く、その1つに紅茶と焼酎の販売がある。きっかけは、2つあった。1つは、2005 年から静岡県が推進する「一社一村しずおか運動」。農山村と企業がそれぞれの資源、人材、ネットワークなどを生かして双方にメリットのある協働活動を行い、地域活性化を促す活動だ。共立アイコムでも、公園にビオトープを設けて蛍を復活させる、遊休地を利活用するなど、さまざまな試みを続けていた。
もう1つの理由は、「青年農業士」を紹介する冊子の作成依頼を受けたことだ。お茶や地酒など多くの特産品に恵まれている藤枝市の地元青年農業士のなかに、オーガニック紅茶の栽培農家があった。
「藤枝の農産物を広く知ってもらうきっかけになればと思って何度も足を運んで話し合いを続け、販売の了承をいただいた。印刷業がいう販促支援は情報を扱って加工することで、物品の実売経験はない。地元の物品を取り扱うことで経験を積み、ノウハウを蓄積しながら地域貢献ができると思ったんです」取り扱っている紅茶「和香味(わこみ)」は、口に含んだ瞬間ふわっと匂いが立ち上り、紅茶特有の「渋味」が残らず非常に口当たりがいい。そのほかにも、知的障害者事業所で栽培された「シモン芋」を使って地元の酒蔵が醸造した「シモン芋焼酎 風」も販売している。これらの事業者と協力しながら、現在は市の認可事を受けた6 次産業事業、クッキーや焼き菓子の開発も行う。
生活者に必要な情報を発信する『しだまちライフ』
最近では、これまで経験のなかった地域展示会の運営も始めたが、行政中心のイベントでは運営側で参加してもむずかしい点が多く、自分たちが主催者となって情報を発信していく重要性を感じた。その思いから誕生したのが、ポータルサイト『しだまちライフ』だ。『しだまちライフ』は、志太(藤枝市、焼津市)という地域の壁を超え、日々の生活圏を同じくする地域住民に必要な公共性の高い地域情報を発信するサイトだ。両市にまたがって事業を展開する東海ガスと東海コミュニケーションズと共同運営している。防犯・防災情報や地域のイベント情報など公的な情報だけを掲載し、地域ポータルサイトによくあるような広告バナーやグルメ・ショップ情報などはない。3 社が業務を分担しながら運営し、公募ボランティア「しだまち特派員」が地域にまつわる情報を提供している。企業やボランティア団体から自分たちの取り組みを紹介してほしいと要望がくるなど、地域の便利情報に特化したサイトは、行政の垣根を超え、2つの市をつなぐ広報サイトとして、地域住民に認知され始めている。
地域を1つにつなぐ「しだまち検定」
小林社長は、『しだまちライフ』立ち上げの経験から、1つの強力なコンテンツがあれば、さまざまなプレイヤーが立場に関係なく協力体制を築けると考えた。いま、そのコンテンツの中心に考えているのが「しだまち検定」だ。いわゆるご当地検定とは多少異なり、出題問題に協賛団体が取り組む活動内容を盛り込むことで、受検者の相互理解、地域理解が深まるというものだ。この検定を柱にウェブや紙、アプリなどで情報発信を行いながら個々に開催される地域イベントなどを1つにまとめる。地域に精通しホスピタリティーを持つ検定合格者たちが、他エリアからの訪問者を迎えられるようになれば、地域の活性にも結び付くと考えた。
この取り組みの第一歩として、現在、新しいご当地グルメ「餃子」の企画を両市に提案しているという。港町焼津市のまぐろやかつおと農業が盛んな藤枝の野菜使用を基本ルールに、各団体や店舗が協力して連携しながら餃子を開発し、食の展示会なども開催していくなど、「検定」を軸にしたさまざまな展開を模索している最中だ。
地域情報発信業として重要なこと
ご当地餃子から高度な医療系アプリ開発まで、共立アイコムが取り組む事業は多岐に渡る。内製化できる体制が社内にあるため、新しいことにチャレンジできるのだと小林社長はいう。
「印刷は長く受注産業であり、顧客との関係性で重要なのはストレスを感じさせずに納品することや価格だった。顧客が考えに考えたコンテンツを預かり、せいぜいデザイン部分で知恵を出す程度のお手伝いしかしてこなかった。この状況に長く身を置いた人に、急に『考えろ』といってもむずかしいだろうが、今後はそれではいけない。顧客がモノを売るとき、印刷会社の仕事はサプライチェーンの一部分に過ぎず、ただの部品屋さんといえるかもしれない。でも、情報を扱ってきた印刷会社は可能性を秘めた部品屋なんです」地域活性化の仕事が自社の抱える悩みを根本的に解決するモノにはなり得ないが、それでも取り組む意義があるという。地元が元気になれば、みんなが潤う。人びとが立場の垣根を越えて協力し、1つの目的のためにきずなを深めていくことが重要なのだ。地域の活性化は、情報発信することから始まる。この考えを原点に、「情報価値創造業」として共立アイコムは進んでいく。
-取材協力ー
株式会社共立アイコム
事業内容=マーケティングリサーチ、セールスプロモーション、ロジスティックス、コンサルティング、オフセット印刷、CI企画、出版物の編集、イベント企画、ダイレクトメール、情報処理サービス、マルチメディアコンテンツ制作、販促用品の販売など