本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。
母子健康手帳が改訂され便色カードが義務化されたが、JAGATではその印刷指導を行っている。2012年度分については一段落しそうなので、その実態を報告させていただく。
JAGATのホームページでも母子健康手帳のことについては触れているので、ご存じの方も多いと思うが、TOPページ右下の母子健康手帳をクリックすれば確認できるようになっている。母子健康手帳用便色カードのページで直接参照することが出来るので是非ご覧いただきたい。
さてJAGATでは公益法人になることも考慮して、ボランティアで便色カードの印刷指導を行っているのだが、おかげさまで2012年度の印刷分120万部(新生児の数)の内、110万部くらいまでは何とかなったということで一安心しているところである。後の10万部は旧母子手帳がまだ残っているのと、JAGATで把握できなかった分ということである。
正直もっとトラブルと思っていたのだが、思いの外「問題が少なかったかな?」という印象である。しかし、印刷部外者の小児科のお医者さん達としては不満だらけのようである。
今回の新便色カードの特徴として、チャートの色を求めるのに多くのデータを収集し、そのデータから規則性を求め、科学的に各ステップごとの色を求めるという手法を取っている。つまり岩石標本なら本物を載せるしかないので、花崗岩だったら、微妙に色や模様の感じには個体差があり、特異な花崗岩サンプルを載せると誤解を与える危険性もある。
しかし、今回の便色チャートは、たまたま見つけた岩石ではなく、花崗岩ならこうあるべきという理想的花崗岩を科学的に決めたわけであり、その色は分光スペクトルで定義されている。将来多色再現で便色チャートを作る場合は、この分光スペクトルを参考にすれば正確な色再現も可能である。だが現時点の運用ではCMYKやRGBデータが主流なので、Lab値で各段数の理想値を明示してある。便の写真も一つの形状から分光レタッチして写真を作っているわけである。
今回の印刷指導で印刷会社から「印刷見本はないのですか?」といわれることが多いのだが、ここで明示されているLab値というものは、科学的に割り出した理想値であり、印刷物の目標値ではないので、敢えて「刷り見本はお配りいたしません」としている。
やり取りの傾向としては、この辺りの経緯を理解できる印刷会社は、難なく目標値をクリアしてしまうのだが、最後まで「刷り見本はないですか?」と要求してくるところに関しては、最後まで印刷で苦労してしまうという傾向を示している。技術者が文句を言うケースは少なく、解らない営業が何とか納品しようとゴネているということである。こういう仕事に関してまで営業が口で対抗してくるのにはいささか閉口気味である。
これを要約するとこうなる。「Lab値がこれだけ違うのでCMYK値をどれだけ動かせば良いか?解らない」ということなのである。刷り見本があればトライアンドエラーで何とかなるという考え方か?目標の印刷物が欲しいようである。しかし、刷り見本があったとしても無くても、やることは闇雲にただ刷り直すだけで、どういう風に近づけたのか理解に苦しむケースが少なくない。
具体的に例を挙げるとこうなる。例えば三段目(下図3番)の場合、Labの理想値はL=78.01、a=-1.02、b=34.91だが、実際に印刷したものがL=78.05、a=-0.05、b=39.07だったとする。この場合はハッキリしておりb値だけが極端に高くなっているケースである。b値とはプラス側がY味を帯びていることを表し、マイナス側はBlue味を帯びていることになる。つまりYのベタ濃度を若干落とせば良いわけであり、最初は各社の条件を聞きながらサジェスチョン程度にとどめていたのだが、余りに話が通じないので「Yのベタ濃度0.05落として下さい」とか、具体的に指示するようにしてしまった。やっぱり便色カラーカードを印刷しようとする会社はベタ濃度とLab値の関係くらい解った上で臨んで欲しいというのが正直な気持ちである。
もちろん、こちらもびっくりするくらいに見事にLab値を合わせてくる会社も多く存在しているのだ。しかし、これもびっくりすることに製版系の会社だったり印刷通販的な仕事をしている印刷会社に高評価の会社が集まっているイメージである。
(文責:研究調査部 部長 郡司秀明)