本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。
アワードの活用法と受賞社の特徴
作品展などアワードにエントリーする意義
2011年の技能五輪ロンドン大会(印刷職種)は日本代表の伊東真規子選手(長野・亜細亜印刷)が金メダルを獲得した。前回2009年カルガリー大会での菊池憲明選手(札幌・凸版印刷)の金メダルに続き、日本勢は2連覇で日本の印刷水準の高さを示した。
第10回印刷産業優良工場表彰では、新日本印刷(香川)が経済産業大臣賞を受賞した。また、第5回MUDコンペティションでは、一般の部で大村印刷(山口)、学生の部で大阪コミュニケーションアート専門学校が経済産業大臣賞を受賞した。
こうした競技やアワードへのエントリーは、他社と比べた自社の位置づけを知る有力な手がかりのひとつになる。受賞した際の対外的なインパクトも小さくない。受賞暦は対外的に顧客が印刷会社を選択する際の客観基準のひとつになるし、社内的には普段は日の当らない部門などの士気を高める格好の機会になる。
太陽堂印刷所の事例
太陽堂印刷所(千葉)は、1980年代後半から米国のPEAK(The Print Excellence & Knowledge) AWARDSに出品し続けてきた。1988年に初入選、2001年以降は独創性ある開発製品がほぼ毎年のように受賞し続けるまでになった。2011年は「セキュリティ機能付健康保険被保険者証+ドナーカード」が最優秀賞を獲得した。
毎年のように受賞できているのは、印刷物上で顧客の課題を解決するレイアウト構造を考え抜き、必要な機能を厳選して組み込むなど、独創性ある印刷物の開発を通じて顧客に時間短縮やコスト削減を提供するソリューションの姿勢が社内に根付いているからだ。もともと、同社には試作品制作を惜しまない社風があったという。現在も年30~40点もの試作品から秀作を出品している。同社にとってアワードは、こうしたものづくりの年に一度の目標であり、受賞式は評価を受ける場であると同時に、他社の独創的な製品から刺激を受ける場となっている。
E-グラフィックス コミュニケーションズの事例
E-グラフィックス コミュニケーションズ(東京)は、2011年「日本BtoB広告賞」製品カタログ単品の部で金賞を受賞した。また、米国CIA(Creative International Awards)にも毎年のようにエントリーし、例えば日産の自動車カタログなどで入選し続けている。同社は自社をコミュニケーションエージェンシーと規定し、クリエイティブ発想の出発点を“DISRUPTION(崩壊させること)”と定めている。一般にクリエイティブは属人性が強く個人の経験やスキルに左右されがちだ。そこで、組織として質の高いクリエイティブを持続的に生み続けるための手法が考えられている。クリエイティブメソッド“DISRUPTION”に象徴される発想法の統一、成功事例の蓄積、美意識の統一、何が優れた作品かのリマインドなどの取り組みにより、組織的な表現品質の向上とレベリングが図られている。例えば優れた作品を社内報で紹介すれば、優れた作品とはどういったものかの共有化が進む。
受賞社が備える持続的な取組みと仕組み
技能五輪で金メダルを獲得した亜細亜印刷は、会社敷地内に「亜細亜活版資料館」を置き、伝統の印刷を語りついでいる。また、印刷産業環境優良工場表彰で経済産業大臣賞を獲得した新日本印刷は、エコプロダクツ展への出展が6回を数える。こうして事例を調べると、アワードで最高賞を得る会社には、背景に持続的に成果を生み出す仕組みや努力のあることが分かる。
2011年12月14日 プリンティング・マーケティング研究会ミーティング「2011年印刷関連アワード受賞社に聞く」太陽堂印刷所 井原和広氏とE-グラフィックス コミュニケーションズ 児玉智平氏の講演より。
文責:JAGAT研究調査部 藤井建人