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フルグローバリゼーション時代にあって、意思決定と実行のダイナミズムとスピード感が日本企業に求められている。トップダウン×ボトムアップによる新日本型モデルを築く必要がある。【JAGAT大会・特集5】
4月24日に行われた経営共創基盤(IGPI)/ ネクステック共催セミナーを聴講した。「グローバル競争を見据えたモノづくりイノベーション」をテーマに、日系製造業の持続的な価値向上に向けた取り組みが紹介された。新興国市場に向けて、コスト削減やスペックダウンを徹底しても、勝ち筋が見えてこないのはなぜか。製品・部品別原価の見える化だけでは十分でなく、市場ニーズと仕様・機能・部品までを一気通貫で結び付けて捉えた本当の“見える化”が必要であることなど、両社が関わっている実際の経営支援事例を交えて、実行可能な方法論が展開された。印刷産業の海外展開はまだ事例は少ないが、ベテランの暗黙知をいかに形式知化するかなど、製造業に限らす多くの産業で活用できる示唆に富んだ講演だった。
さらにセミナーの最後には、IGPI代表取締役CEOの冨山和彦氏の時事講演を聴くことができた。
昨年6月の「JAGAT大会2011」で特別講演をお願いした越純一郎氏の著書『事業再生要諦 志と経営力-日本再生の十年に向けて』に、産業再生機構COO(当時)の冨山氏が、次のような熱意あふれる推薦文を寄せている。
「『志』と最低限のスキル(戦場であっさり頓死しない程度の)のある若い連中を、多少失敗してもいいからさっさとマネジメントポジションにつけ、思いっきり苦労させて現場で鍛錬する『国民運動』をおこす必要性を私は感じている。」
同書は産業再生機構が発足した2003年に発刊されたもので、日本の再生に必要なものは「志」と「経営力」であると断言している。著者の越氏は「産業再生機構をはじめとする事業再生のプロセスでも、投資ファンドの企業買収でも、常に経営理念の問題が指摘されているのには、明確な理由があります。経営理念は企業経営における最大のキーワードなのです」と語っていた。
産業再生機構は産業と金融の一体再生を掲げて、4年間で41の企業グループを支援した。その中には、2度にわたる破綻から国際的なM&A市場機能を活用し再生を果たしたアキヤマ印刷機械の案件もある。2007年3月に存続期間を1年残して解散したが、同年6月の清算時には黒字収支で433億円を国庫に納付し、国民負担を回避させた。
「産業再生機構での四年間、私は経営の難しさ、怖さを嫌というほど思い知らされました。だからこそ経営力の大切さ、経営人材の重要さも痛感させられたのです」という冨山氏は、日本企業の根幹的な競争力は「現場の強さ(現場力)」にあるとする。しかし、マネジメントの脆弱さが、現場にしわ寄せを与えて、社会や会社を「ゆでガエル」のようにじわじわとダメにしていることに大きな危惧を抱いている。
今回の時事講演では、冨山氏は日本の製造業が置かれた現状として、「フルグローバリゼーション時代にあって、多くの日本企業が意思決定と実行のダイナミズムとスピード感において、アメリカ型の株主主権モデルやアジア圏のオーナー主権モデルに完敗している」ことを指摘した上で、「高い現場力や実行力など、日本企業がもつ共同体モデルの強さを失わずに、いかにアウェイで戦うか。トップダウン×ボトムアップによる新日本型モデルを築く必要がある」ことを力強く語ってくれた。
■関連イベント 「JAGAT大会2012 」
2012年6月22日(金)東京コンファレンスセンター・品川にて開催決定!
特別講演には事業再生のプロ 冨山和彦氏を招聘!
・株主主権モデルやオーナー主権モデルと戦える「会社のかたち」とは?
・トップダウン×ボトムアップによる新日本型モデルが「決断力」を再生させる。
・自由と自立、合理力と情理力、胆力、信念、哲学をもつ本物のリーダーが求められている。
・「社長のような」現場人材が何人いるかが企業の強さの根源となる。