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ある人から部門別利益管理について色々と尋ねられた。聞いていると弊害が出ているようだった。難しいが正しく使えば有用な、間違って使えば弊害の大きい、その部門別利益管理について。
部門別利益管理は難しい。その主たる理由はコストの部門別配賦が難しいことと、継続運用が難しいこと、誤用により起こるセクショナリズムなどによる。そもそも、コストの完全な部門別配賦など可能なのだろうか?完全にできないなら、ややこしい部門別配賦など意味がないではないか?苦労して配賦したところで、A部門に計上してもB部門に計上しても、同じ会社内なのだから右のポケットに入れるか、左のポケットに入れるか、それだけの話ではないか。
欧米では早くから経営の意思決定にキャッシュフローが用いられてきた。日本は1999年度に上場企業での導入が義務付けられたから、10年ぐらいは導入が遅れている。減価償却費のように過去にキャッシュアウトしたコストを一生懸命に配賦しても意味がないし、人件費を7:3の割合で配賦しても全社の利益総額が変わるわけでない。それならば、動いたお金の変動だけを正確に捉えよう、正確に捉えた数字で正確な経営判断をしよう、というのがキャッシュフローの考え方の基本である。
確かにキャッシュフローの考え方は優れている。そうすると、部門別利益管理は無意味なのだろうか。結論から言えば、部門別利益管理は有用であるが、誤用するなら弊害である。たとえば、X社は年商10億円の会社で5部門から構成されている。40百万円の黒字だが、5部門のうちの管理部を含む2部門が赤字である(図1)。赤字のC部を「不採算だ!」と言って廃止して良いのだろうか。そんなわけがない。赤字の20百万円を超える人件費の30百万円が残ってさらに赤字が膨らんでしまう。
では、例えば管理部から1名をD部に配転して増強したらどうだろうか(図2)。D部の売り上げは増える(150百万円→170百万円)が、D部は赤字に転落(+1百万円→△2百万円)し、X社の5部門のうち、実に3部門が赤字になってしまう。ところが、X社全体としては赤字部門が増えるのに、利益総額は増える(40百万円→42百万円)。つまり、X社は戦略的に赤字部門を増やすことで全社利益を増やすことができる。会社経営とは赤字部門を減らせば利益が増えるほど簡単ではないのである。
また、部門別利益管理はある部門や事業が赤字か黒字かを判定するためのものでもない。見てきたように、全社利益最大化のための資源最適配分を考える手法である。ファイナンスに不勉強な管理者が短絡的に数字を見て、ある部門や事業を「赤字だ!」、「不採算だ!」と問題視して社員のモチベーションを下げたり、正反対の意思決定をしたり、最悪は事業をたたむケースまでありうる。赤字事業も時には使いようだし、部門別利益管理は有用だが、使い方には慎重さを要するのである。
(JAGAT 日本印刷技術協会 研究調査部 藤井建人)