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2つの分科会では、予定調和的な議論ではなく、参加者の皆様にビジネスのヒントになるものを持ち帰っていただけるような問題提起や現状認識を提示したい。【JAGAT大会・特集9】
「JAGAT大会」は、年に一度の会員大会として毎年6月に開催している。会員企業の皆様の交流の場というだけでなく、皆様とともに新たな時代の印刷経営を考える機会となっている。
2010年に会場を品川に移し、新たに「マーケティング」「クロスメディア」の2つの分科会を設定した。2つのテーマは印刷経営の今後重要な戦略課題になることは明らかで、講演会と懇親パーティーという従来の形式から一歩前進して、参加者の皆様にビジネスのヒントになるものを持ち帰っていただきたいと考えたからだ。
6月に入って、2つの分科会のメンバーの顔合わせを兼ねた打ち合わせを行った。活発な意見交換の中で、幾つか今回の分科会のキーワードが明らかになった。市場がシュリンクする中で、手をこまねいていても始まらない。視点を変えること、アドバンテージとは何か、なぜ失敗を望むのか、などなど目から鱗の発言も飛び出して、当日の展開がますます楽しみになった。
デジタルコンテンツビジネスの可能性はそこかしこにある
クロスメディア分科会のスピーカー小野寺昭雄氏は、編集局地方部記者を経験後、週刊読売編集部に配属となって、阪神大震災、オウム真理教事件などの大事件の取材を担当している。その後、メディア戦略局に異動後、中学受験応援サイト「読売受験サポート」の立ち上げを担当することとなった。私立中学受験という非常にニッチな市場に戸惑うことも多かったが、昨年から電子書籍制作を手がけ、さらに電子書店「本よみうり堂デジタル」の開設・運営も行っている。
「電子書籍の制作と電子書店の運営は、利害が反することもある。毎日新しい問題が持ち上がっている」と苦労を語るが、実践の中でしか知り得ない知恵、問題提起をしていただけるだろう。
池田敬二氏は大日本印刷では出版印刷の営業、企画部門を歴任し、2010年より電子出版制作・流通協議会事務局に勤務し、日本電子出版協会クロスメディア委員会委員長、武雄市図書館デジタル化推進協議会委員も務めている。2015年には2000億円といわれる電子出版市場に関して、印刷、放送、通信などの市場に与える影響やクロスメディア戦略のあり方などを調査・研究していて、講演や執筆活動も積極的に行っている。
「書店で在庫がないということは、お客様に帰れと言うようなものだ。電子化で絶版、販売機会ロスを消滅できる」と読者の視点に立つ必要性に言及する。
既存のパッケージビジネスやメディアビジネスから脱却するためには、クロスメディア人材の育成が急務となる。デジタルハリウッド大学の教授でもあるモデレーターの橋本大也氏は、IT業界では入学時に最先端と思われた技術が4年後には陳腐化している現実を見てきた。しかし、コミュニティーの形成を助けることで、最先端の技術に挑戦する若者を育てることができる。
「ソーシャルゲームを牽引している企業は、アドバンテージがないことがよかった。既存のメーカーにはできないことができた」と、アドバンテージが足枷になっていないかと問題提起する。
価値を新たに創るのはやはりヒト
マーケティング分科会のモデレーター郷好文氏は、経営コンサルタント・エッセイストとして活躍する中で、世の中の動きを把握すること、着眼点を持つこと、そこから商品の企画、開発が生まれることを痛感してきた。「価値を新たに創るということは、これまでの価値を捨てること」と定義し、二人のスピーカーの成功事例をヒントに、会場を巻き込んで自社のこととして考えてもらいたいと張り切っている。
伊藤バインダリーの三代目、伊藤雅樹氏は、職人技を生かした自社商品「ドローイングパッド」と「上質メモブロック」でグッドデザイン賞を受賞し、国内外の展示会にも積極的に出展している。展示会では普段表に出る機会の少ない職人を前に出して、商品説明などをしてもらう。初めは苦手意識の強い職人にとっても、若い女性の「すごい!」の一言は大きな刺激になる。仕事への誇り、製品に対する誇りが、本業にも良い影響を与えるという。
乗車券印刷の分野で90年を超える歴史をもつ山口証券印刷だが、2D/3Dのポスターやパッケージなどを、顧客視点で手掛るためにインセンクス事業部を立ち上げた。Creative & Printingディレクターの山口誉夫氏は、「プロデューサー、ディレクターが社内にいることが重要」という。印刷会社にとって、社内にそのような人材を育てることは容易ではないと思われるが、「押さえつけないこと。フリーにさせたら、元からの才能が噴き出した」と笑う。「ハードとソフトとヒトのバランスが重要だが、印刷会社はこれまでヒトに投資してこなかったのではないか」と、ものづくりの基本に立ち返ることの重要性を強調する。
■関連イベント「JAGAT大会2012 」
2012年6月22日(金)東京コンファレンスセンター・品川にて開催!
■クロスメディア分科会「電子販促・電子出版時代のビジネスを考える」では、
橋本大也氏をモデレーターに、池田敬二氏と小野寺昭雄氏がスピーカーを務めます。
■マーケティング分科会「価値創造のマーケティングを考える」では、
郷好文氏をモデレーターに、山口誉夫氏と伊藤雅樹氏がスピーカーを務めます。