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企業の収益性や生産性を評価する上で重要な指標が“加工高(付加価値)”である。激しい価格競争にさらされ売上拡大が厳しい環境では付加価値の確保、向上が非常に重要であり、だからこそ、その手法である「見える化」が注目されている。
このほど集計結果がまとまった「印刷産業経営力調査 」の2011年度結果によれば、回答企業132社の原価構成の平均値は以下のようになった。
図1.印刷会社の収益構造(2011年度JAGAT経営力調査より)
売上原価は、材料費や外注加工費などの外部支払費と工場労務費や減価償却費などの社内製造費からなる。そして、総売上から売上原価を引いたものが売上総利益、いわゆる粗利である。
販売費および一般管理費は、営業にかかる経費である販売費と総務や経理などの管理費の合算である。
粗利から販売費および一般管理費を差し引いた残りが本業での利益を表す営業利益(マイナスの場合は営業損失)となる。
そして、企業の収益性や(価値的)生産性を評価する上で重要な指標が、総売上から外部支払費を差し引いた“加工高(付加価値)”である。ここでの付加価値とは、個々の企業が生産活動やサービス提供を通じて新しく生みだした価値という意味である。この付加価値の中から従業員に対する給料や賞与などを支払い、機械設備などの減価償却費・金利・税金などの諸経費を支払い、なおかつ利益を残して企業の将来のために積み立てる財源を確保することになる。
「見える化」の目的を、上図のなかで表現すると「加工高(付加価値)の金額や対売上比率を高める」ことになる。激しい価格競争にさらされ売上拡大が厳しい環境では、この付加価値の確保、向上が非常に重要であり、だからこそ、その手法である「見える化」が注目されている。
6月22日に開催したJAGAT大会2012での(株)経営共創基盤 代表取締役CEO 冨山和彦氏の特別講演のなかでも、地方のバス会社を企業再生するにあたり、路線バスにICカードを導入し、路線ごと時間帯ごと、あるいは区間ごとの乗客数を「見える化」し、精緻に分析して収益改善に結びつけたというお話があった。
これを印刷業に置き換えると受注一品別、工程別の「見える化」であり、ICカードがJDF/JMFであろうか。JDFを導入しないまでも、「見える化」の出発点となるのが作業日報である。記述内容の正確性と受注との紐づけ、そして作業結果を金額換算し、受注金額と対比してみることが改善の出発点となる。
以下になかなか「見える化」しづらいDTP制作/プリプレス部門の作業日報のシステム化の例を示す。
入力項目は、大きく分類すると「受注情報」「作業内容」「標準原価」「数量」「作業時間」の5項目である。JAGATでは標準原価の設定を推奨しているが、設定が難しいようであれば、最初はなくてもかまわない。まずは、できる範囲から早く始めることが大切である。
図2.日報入力画面の例
図3は、作業日報のデータを集計して、プリプレス部門における受注一品別の売上と原価を比較した例である。ポイントは、得意先からの要求がなくても、きちんと工程別に積算見積りをして、その結果を登録することである。(せっかく積算しても、最後に営業管理費 マイナス○○万円【値引き】のような見積り書では元も子もないのだが・・・・・)。
以下の図の見かたは、
(1)プリプレス売上と標準原価を比較して、営業粗利が確保できているかどうかをチェックする。
営業粗利が不足しているときは、営業の受注金額に問題があることになる。
(2)プリプレス売上と実際原価を比較して、作業結果として差益がとれているかどうかをチェックする。
差益が不足しているときは、現場の生産性に問題があることになる。
図3.受注一品別原価把握(プリプレス部門)の例
同様の分析を得意先別に年間単位で行って、収益性が極端に悪い場合は仕事そのものを断るという判断をすることもある。
受注一品別の分析に加えて月次部門損益と個人/設備別の生産性評価を行えば、ほぼ「見える化」できたと言えるだろう。後者の2つについてはまた別の機会に取り上げたい。
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