本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。
~管理職教育の急務課題はマネジメント~
先日、ある講師との打合せの中で、
「印刷会社の人材育成は知識教育と技術教育に偏り過ぎで、もうひとつの要である意識教育が不足してはいないか?」
という問題提起をいただいた。
どんなに知識や技術を社員に詰め込んでも、それを日々の実務に活かす仕事に対するモチベーションや、対お客様、社の他部門のスタッフ、同僚、部下に的確に伝え仕事を進めていくコミュニケーションスキルが無ければ、それが充分に発揮されない。薄々実感していたことではあったが、はっとさせられた瞬間だった。
また、管理者教育の重要性が改めて叫ばれ、ご要望が多く寄せられるようになったことも最近の傾向である。その本質にあるのは管理職者の意識変革、意識教育にあるようだ。
■実務に追われ、マネジメントが行き届かない
営業部門を例に取って見ると、対部下への売上管理、行動管理手法といった「知識」「技術」ももちろん大事である。しかし、今現場が直面している管理者教育の課題は、もっとより根本的な部分にある気がしてならない。
管理職者の方から頻繁に寄せられる課題に「自分は実務とマネジメントを兼任している。しかし日々実務に追われて、部下のマネジメントが行き届かない。」というものがある。所謂プレイングマネージャー論である。
このテーマで管理職者の方にお話をお伺いすると、
「頭では分かっているのだが、実務を行っていない自分に不安になる。」
「人に任せるなら『自分でやった方が早い』と思ってしまう。」
「部下に仕事を任せることを心掛けてみたが、うまく行かなかった。」
といった意見が挙がって来る。貴社の管理職者の本音はどうだろうか?
JAGATでマネジメントに関する研修や執筆で活躍する湾岸道路の苅田和房氏は「管理職者が実務とマネジメントを兼任する『プレイングマネージャー』を自ら名乗るとは一体何様のつもりか。」と厳しい。
「組織の規模の大小に関わらず、管理職者の役割は、実務ではなくマネジメントである。管理職者が『自分でやった方が早い』とは言語道断。『部下に仕事を任せたが、うまく行かなかった』は、貴方の仕事の任せ方が悪いのだろう。仮に本当にその部下の能力が足りないのだとしたら、その部下を育てたのたのは他でもない貴方自身であることを自覚すべきである。」
管理職者が忙しい立場にあることはもちろんである。それに加えて実務に追われていては、部下は色々と相談をしたくても遠慮をしてしまう。たとえ相談をしたとしても、心に余裕のない管理職者から返ってくる言葉は、思い付きや思い込みで、的外れなものであることが多い。そして当然部下は上司に不信感を抱くことになる。苅田氏は「そんなところからコミュニケーションは断絶し、ますます組織は形骸化していく。だからまずは管理職者自身が変わらなくてはならない。」と語る。
■満足そうな部下の笑顔に充実感を感じる
ひとつの事例を紹介しよう。JAGATが年2回開催している「リーダー&マネージャー養成合宿」に数年前に参加をしたある制作部門の新人課長は、実務とマネジメントの狭間で大きく葛藤をしていた。
事前のアンケートで彼は「リーダーシップを取り、部下の信頼を得た上で仕事を進めていくにはどうしたらよいか?作業としての仕事を頑張れば、マネジメントが不足する。マネジメントに徹すれば、作業をしていない引け目を感じてつい気を使ってしまう。理屈では分かっていてもそういう状況になることが多く、自信を付けるための体験をしたい。」と答えていた。
2日間の研修を経て、彼はマネージャーとしての自分自身の本当役割に気づき、肯定し、現場へと戻っていったわけだが、その丁度1年後、彼から次のような連絡をいただいた。
「ご無沙汰をしていますが、頑張ってマネジメントしています。この1年で、マネージャーとして実務を切り離してもこんなにたくさんの仕事があるのだと気付きました。実際に制作活動をしているのは、チーフであり、オペレータといった部下なのですが、その彼らとの向き合い方次第で、結果はよくも悪くもなるということを何度も体験しました。私たち組織の仕事は、良い印刷物を創ることですが、自分の仕事はその組織を作ることだと今は思えるようになりました。
良い仕事が納まり、上司や営業から褒められることがあります。チーフやオペレータは満足感や充実感を持ってうれしそうに苦労話をしていることがよくありますが、自分ではその満足そうな部下の笑顔を見ているときに満足感や充実感を感じます。」
実務とマネジメントの兼務に苦しんでいた彼が、喜びを持って仕事に打ち込んでいる姿。管理職者の仕事との何たるかは、この文章にすべて表現されてはいないだろうか。
■それでもプレイングマネージャーを目指すなら
JAGATの雑誌「Printers
Circle」の連載「マネジメントQ&A」で、苅田氏は「プレイングマネージャーが成功する条件」として次の3点を挙げている。
1.既にプレーヤーとして超一流であること
(トップセールスマンやトッププレーヤーを目指す意識だけではダメ!)
2.あくまでもマネジメントが本務であり随時にのみプレーすること(本末転倒はダメ!)
3.兼務はごく限られた一時期(過渡期のみ)であること
苅田氏はプレイングマネージャーの事例として古くは南海ホークスで監督兼選手を務めた野村克也、そしてその愛弟子とも言える現東京ヤクルトスワローズの監督兼選手の古田敦也を挙げる。そして彼らほどの優れた才能あってこそ、プレイングマネージャーとして機能できることを強く訴える。
「彼らがどのようなバランス感覚やウェイトで監督兼選手をこなすのか、本質的な面をしっかりと観察しながら自分に率直に当てはめて見るべきです。そうした研究と理解力なしにプレイングマネージャーを語るなかれ!体制の不備や人材不足を言い訳にするのはやぶ蛇と悟るべし!」
管理職者のどっちつかずの中途半端さで、迷惑を被っているのは部下たちであり、結果的にそれはお客様にも及ぶ。そしてそれが組織の停滞や形骸化につながり、事業の運営に悪影響を及ぼすという事実を自覚しなければならないだろう。
厳しい業績の原因をを市場環境や既存顧客の事情とするのは簡単であるが、じつはその本質は、もっともっと身近なところにあるのではないだろうか。(A)
【関連講座】
●年2回開催
リーダー&マネージャー養成合宿
●年2回開催
マネジメントQ&A