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印刷メディア制作を通して地域とともに発展してきた印刷会社の地域活性化ビジネスは、いくつかのカテゴリに分けられ、共通するキーワードがある。
近年、地域活性化への注目が高まるとともに、印刷会社が担い手として参入するケースが増えてきた。それは、印刷メディア制作で蓄積したノウハウや地域ネットワークを生かし、新しい「モノ」や「コト」を創造しながら地域の課題解決ができる印刷会社が増加しているからだ。
印刷会社が手掛けている地域活性化ビジネスはいくつかのカテゴリに分けられ、取り組む会社に共通する「キーワード」も見えてきた。今回はこの「カテゴリ」と「キーワード」について紹介する。
1つ目のカテゴリは【産学官連携】だ。地域経済の活性化を目的に、自治体や官公庁、大学、民間企業が連携して取り組む事業で、印刷会社は産学官の調整役として参画し、事業全体のコーディネーターの役割を担うことが多い。商店街活性化イベントやフリーマガジンの制作、都心部へのアンテナショップ出店、観光客誘客用の動画制作・配信などのモデルがある。助成金などの支援も受けやすく、比較的規模の大きいプロジェクトとなる場合が多い。
2つ目は、【オリジナルキャラクター、グッズの開発】である。これは、地域が持つ特徴や魅力を詰め込んだオリジナルキャラクターを生み出し、地域住民には愛着を持って育ててもらい、地域外にはその地域を代表する象徴として意識してもらうビジネスだ。ご当地ヒーローや観光地のオリジナルキャラクター製品などの事例がある。印刷会社にはモノ作りのノウハウがあるため、ノートやメモ帳、カレンダーやうちわなど自社オリジナル製品の作成とともに、ロイヤリティー収入の可能性も期待できる。
3つ目のカテゴリは、地域の魅力を発掘し、再発見・再編集しながら地域のイメージや知名度を高め、ブランディングしていく【地域ブランディング】だ。地域の風景画の展覧会や関連グッズの制作、地域の観光マップ制作や地域本の発行、地域検定、地域で作られる農作物のブランド化などの事例がある。地域にネットワークを持ち、印刷をはじめ、多メディアを用いた課題解決法を持つ印刷会社にとっては、割合に参入しやすいモデルかもしれない。
4つ目は、限られたエリアだけでなく広域を対象に、地域の魅力や情報を訴求する動画を制作・配信する【動画サービス】である。外国人観光客を誘客する動画番組のライブ配信や、地元情報を地域内外の人に届けるインターネット放送局などがある。高度な専門知識や高額な機材がなくとも、少額の投資と人材で始められる点に魅力があり、印刷と動画を組み合わせたクロスメディア提案などができる利点もある。
最後、5つ目のカテゴリは【場の提供】である。個人や団体による地域活性化活動は無数にあるが、それらを結びつけるような機会や場は意外と少ない。そのた
め、印刷会社がハブとなるような1つの場を提供し、それぞれが連携を深めながら地域を盛り上げていく方法だ。地域カフェや相互コミュニケ―ションが可能な
地域放送局、それらに併設されているSNSなどがその事例だ。地域にネットワークを持ち、情報を蓄積してきた印刷会社が最も適任とされる手法だろう。
大きく5つのカテゴリに分けられる印刷会社の地域活性化ビジネスだが、多くの会社に共通するいくつかのキーワードがあった。それは、「経営者の地域への思い」と「それに応えるスタッフの存在」、そして「採算を無視しても地域活性のために事業を始める信念」だ。
地域活性化ビジネスは始めてすぐに収益に結び付くようなものではなく、ある程度の年月をかけて育てていく必要がある。そのため、始めた当初は持ち出しになることも少なくない。それでも地域に貢献したいという経営者の思いと、賛同するスタッフがいなければ取り組むことはできない。しかし一度始めると息が長く続けられるビジネスでもある。
印刷会社がこれまでに培ってきたノウハウや知識、ネットワークは、地域活性化のプロデューサーにとって必要不可欠な能力だ。「よろず相談所」となって地域の課題を解決する牽引役となることで、賛同者とのネットワークも広がり、新しい需要創造にもつながっていくのだ。
(JAGAT 日本印刷技術協会 研究調査部 小林織恵)