本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。
20世紀末の10年間、印刷産業を支えていた土台が大きく変化し、業界を取り巻く環境は、かつてなく厳しいものとなっていった。デフレ不況、市場の飽和など、不安要素に満ちた状態は、新世紀になっても引きずっている。
そして、2011年3月に東日本大震災が起きた。
昨年の『印刷白書2011』では、特集として「震災とメディア」を組んだ。その時点では、震災の全貌を把握することは不可能であったとしても、2011年という年を捉えるためは前提として欠かすことのできない事象であり、マスコミをはじめとする各種メディアや印刷物が、震災による社会の変化や復興に向けてどのような影響を及ぼし、役割を果たしたのか、あるいは果たすべきなのかを探ることは意義のあることだと考えたからだ。
そして、震災後のメディアのあり方、メディアの使命、復興、公共性、公益性などを考慮し、信頼ネットワーク再構築の提言を行った。
そこでは重要なキーワードとして、「信頼」と「共感」が浮かび上がった。
情報爆発化時代に正しい情報、役立つ情報、信頼情報は何か、を見極める目利きが必要とされる。しかしそれは、助け合いや信頼といったコミュニケーションが得られたことで、自浄作用を果たしたと見る向きもある。
昨年の震災では、ソーシャルメディアの活躍、特に個人の配信する情報が見直された。
宮武外骨 は、関東大震災の翌日からスケッチブックを片手に上野公園で取材して、個人雑誌『震災画報』を自分で活版を組んで創刊した。「上野公園に被災者が密集している様子、あるいは西郷の銅像に尋ね人の貼り紙が無数に貼付されているさまなど、首都圏の混乱がリアルタイムに報道されている」(紀田順一郎著『日本語大博物館』、ジャストシステム、1994年)。
これなども、TwitterやFacebookを駆使して個人として情報をリアルタイムに発信し続けた人たちと重なる。宮武外骨は明治から昭和にかけて活躍した反骨のジャーナリストだが、「マイメディア」のはしりといえるのかもしれない。
マスメディアとソーシャルメディアは、お互いの利点を生かし、それぞれ補完し合って進化していくという方向性も見えたと思う。しかし一方で、信頼情報の取捨選択が課題として残った。
ネットを通じてあらゆる場所で人々がつながり、社会の構造そのものまでが変わろうとしている。新たなパラダイムシフトが起こり、業態や業際の変化が否応なしに進んでいく。そうした人々のコミュニケーションを取り巻く大きな環境変化の中で、いかにして共有・共感・信頼のネットワークを構築していくべきなのか。
東日本大震災から1年がたち、2012年版の『印刷白書』「特集」では、前年を踏襲しつつ震災後の状況を掘り下げるとともに公共性、公益性について触れていく。
2011年版で「生き延びるためのメディアと信頼ネットワークの再構築」を執筆したクォンタムアイディの前田邦宏氏に再度執筆を依頼し、その後の知見や構想を具体化する準備に入った今の状況について紹介してもらった。安全保障のために「知の赤十字構想」が必要であり、印刷や出版の流通ネットワークで何ができるのかを実際のビジネスに落とし込んで、公益性を担保することを提言している。
2012年創立45周年を迎えたJAGATは、第2の設立ともいうべき公益社団法人へ移行した。
公共性とは何か、公益性とは何かを印刷・メディア産業の使命や今後のあり方などと絡めて、追求していくことが必要になる。そして印刷を通じての文化・社会への貢献が「公益社団法人」としての命題になってくる。
あらためてJAGATの原点を見つめると、そもそもの設立主意から公益性を求めていたことがよくわかる。そこで、JAGATの45年にわたる事業の推移とともに、特集においてもJAGATの存在意義や立ち位置を再確認したい。
■『印刷白書2012』 (2012年9月末発刊予定)
「印刷白書2012」の第1部「特集 印刷メディアと公益性」では、震災後のメディアのあり方、メディアの使命、復興、公益性、公共性などを考察しました。
■印刷白書2011