本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。
特集「印刷メディアと公益性」では公益性の意味、公共益のための出版流通ネットワーク、印刷文化について考えました。様々なデータを駆使して印刷産業の全体像を把握できるように努めました。
印刷白書は2006年版から現在のような書籍の体裁となって、会員企業の代表者に1冊献本されています。今年の印刷白書は9月26日発刊で、昨年より少し遅くなりましたが、ぎりぎりまでデータを精査したことで、8月末発表の統計資料まで反映しています。
印刷白書の表紙は、毎年ちょっとした遊び心と隠れたテーマがあります。今回は「鶴の折り紙」をモチーフに、一次元の紙が発想の転換でニ次元になること、「価値創造の世界」をイメージしています。紙=印刷の世界、折られたモノ=将来の新しい価値、そして、「印刷白書」のタイトルは青い紙に反転した文字を切り込んで、活版の世界をイメージしています。
表紙を一目見ただけでわかると思いますが、本書は一般的な報告書や白書類とは一線を画すもので、読み物としての視点も重視しています。
そのことは3部構成で、第1部の特集では印刷白書というくくり以上に大きなテーマを取り上げていることにも表われています。これは、印刷メディア産業の大きな変化を捉えるために、社会全体の変化に目を向けることが必要と考えているからでもあります。
今回の特集では「印刷メディアと公益性」を取り上げました。これだけで1冊の本にまとめても足りないぐらいの大きなテーマですが、公益社団法人としてのJAGATが公益性をどのように考えているのか、また印刷文化を支える印刷人の誇りについても触れておきたいと考えたからです。
2011年の特集「震災とメディア」では、クォンタムアイディの前田邦宏さんに「信頼ネットワークの再構築」という提言をいただきました。今回は「知の赤十字構想~世界を紡ぐ公共益のための出版流通ネットワーク」において、その後の進展と具体例をまとめていただきました。「新たな時代のメディアの公共性、公益性」では、公益性の意味をあらためて整理しました。また、「印刷文化は印刷人の努力によって維持される」では、JAGAT塚田司郎会長の父上で、JAGAT創業者でもある故塚田益男氏の現在にも通じる示唆に満ちた言葉を多数引用していますので、ぜひ参照していただきたいと思います。
白書という意味ではデータで語るべきと考え、ページ数は前年と同じですが、図版点数は前回の138点から146点に増加しました。前回からモリサワUDフォントを使用していますが、今回はさらにメディアユニバーサルデザインに配慮した図版デザインとし、より見やすくわかりやすい紙面を目指しました。
また、2011年版では統計データに関する質問が幾つか寄せられたことから、産業構造の項では印刷産業の市場規模を推計できる統計資料を一覧表にまとめ、印刷産業以外の方にも印刷産業の全体像を理解してもらえるような構成にしました。
産業連関表による印刷需要の考察はJAGATしか行っていません。上場企業分析も32社を取り上げたものは他にはありません。章末に関連資料をまとめていますが、印刷産業の関連資料は20ページにも及びます。印刷産業の見取り図を最初に掲げ、印刷産業に関する経営数字の比較や百貨店売上高との比較など、各種データを駆使して独自の切り口でまとめました。もちろん、印刷産業経営力調査、印刷業毎月観測アンケートなど、JAGAT独自の調査データも紹介しています。
第3部「印刷産業の経営課題」では、最初にドメインを取り上げました。印刷産業を取り巻く環境や産業構造が大きく変化している中で、どのようにビジネスを展開していくべきか。そのための喫緊の課題として、地域活性化、CSR、クロスメディアなどを取り上げ、最終的に人材の問題に行き着くことを示しています。この流れは、第3部だけでなく特集から全体を読んでいただいても伏流していることがわかっていただけると思います。
巻末にはJAGAT創設以来の印刷産業、関連産業の動きを年表にまとめました。
「印刷白書はまさに公益事業といえる」「白書は非常に参考になる」「読んでいて面白い。2~3年前から非常に良くなった」という読者の声に支えられて、今回も無事発刊することができました。今後とも印刷産業の発展に寄与できるようなコンテンツを提供できるように努力してまいります。
(JAGAT CS部 吉村マチ子)
『印刷白書2012 』
2012年9月26日発刊