本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。
領土問題に端を発した近隣国との対立が長期化し、復興需要が牽引していた国内経済を減速させている。2012年上半期の企業倒産はこの20年で最少だったが(東京商工リサーチ調べ)、先日は大阪で中堅出版社の破綻による印刷会社の損失も観測されたほか、印刷業の倒産は3年ぶりの増加とも報じられている(帝国データバンク調べ)。政局も相変わらずの混迷で景気の先行きは予断を許さない。
2009年に亀井大臣の肝煎りで施行された中小企業金融円滑化法の返済期限が2013年3月に迫っている。2011年だった返済期限はリーマン・ショックのあまりの影響の大きさに2012年に延長されたところに大震災が発生、再延長で2013年に先送りされていた。この返済モラトリアム臨時立法で当座をしのいだ中小企業が全国に40数万社あったのである。
金融機関もいつかは貸付を回収しなければならない。これから年末と年度末を迎えるにあたり、経済的な緊張状態の続く事態を想定して備えておく必要がある。従って、手元資金の流動性、新規取引の開始、既存得意先の売掛金管理などのリスク管理はいつも以上に充分な注意を払うようにしたい。
幾度もの不況を乗り越えていまある印刷会社は、こうした状況を的確な判断や経営センスで乗り越えて現在がある。偶然にも、リーマン・ショック前に人員リストラを終えていた印刷会社の経営者がいた。「断腸の思いでベテラン社員に辞めてもらったのにリーマンでしょう、利益が出るはずだったのにトントンでした」という。
「リストラしないままリーマン迎えていたら?」と聞くと、「いやあ、ダメでしたね」とのことだった。リーマン・ショック前にリストラを終えている経営センスが素晴らしい。(東日本大震災ではないが)天災で大打撃を受ける前に、保有工場を売却して危うく難を免れた印刷会社経営者もいる。企業はゴーイング・コンサーンである。
数十年以上も会社を存続させるには正しい戦略や財務に加え、運やセンスが不可欠なように思われる。優秀な経営者は常に広くアンテナを張り、新鮮で豊富な情報をもとに、ちょっとした兆候から先行きを無意識に的確に判断し、事故を未然に避けているように思われる。大切なのは日々の研鑽と情報収集を惜しまない姿勢であり、これらが運やセンスの源泉となる。
経営の分析や評価、判断は何より客観データ・定量データが優先される。しかし、優れた経営者や優れた会社を見る機会があると、数字や戦略だけで説明できない何かを持たれているのではと、考えさせられることが多い。客観データを踏まえたうえで、人脈を広げて情報収集に努め、これからも訪れるであろう不測の事態を乗り越えるようにしていきたい。
(JAGAT 研究調査部 藤井建人)