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今後LED光源が加速度的に増えていくだろう。LED光源の演色性は独特で、印刷業界がこの辺の知識を活用できるかどうかで、クロスメディア領域へのマーケット拡大の切り札になる可能性も高い。
■印刷業界のコアコンピタンスを考えたとき、「色の知識」や「色に対する品質責任」は欠かせない。
印刷業界は本来、色に関する知識を他業界よりも広く深く詳しく知っていたハズなのだが、最近印刷関係の技術者と話して、色に関する知識が「CMYKの網%バランスを知っていること」だったり、「CMYKは旧い。これからはRGBバランスを知らなくてはいけない」ように勘違いされている人が少なくないように感じている。
伝統的なレタッチの職人は科学的なテクニカルワードは知らなくとも、四畳半のアパートでどんな風に色が見えるか?朝日はどんな感じで夕日はこんな感じというポイントを知っていた。CIEの知識は無くとも、色の本質は理解していた(と私は思っている)。
しかし最近の印刷業界は、カラーマネージメントが重要だといってもそのオペレーションを知っているだけで、この印刷物が朝日や夕日でどう見えるか?特定の場所でどう見えるか?等々に応用できる人が極端に少なくなってしまったように感じられる。
従って、デジタルサイネージやバックライトの電飾ポスターに至っては、カラマネ技術をはみ出した領域として、お手上げ状態である。(印刷業として、手助けできることは随分あるはずだ)
「やっぱり色のことは印刷業界だ」ということになれば、電子書籍やWebの色合わせ(動画まで含めて)や、カラーのプロデュースに関したビジネスがどんどん転がり込んでくるはずである。
個人的な反省なのだが、時間が許す限りこの辺の解説をしなくてはいけないと思いつつ、最近はサボってしまっているので、第1回目として今回は、良質のLED光源のXicato社の技術について語ってみたい。(正直この光を見てショックというか、感動を受けてしまったので・・・)
■東日本大震災の発生以降、節電への関心が高まっていることもあって、LEDの小型で低消費電力、長寿命という特徴が特に注目された。LEDは「低消費電力であること」以外にも、「ガラスを使わないため壊れにくい」「光に熱が含まれてない」「調光が容易」「瞬時点灯できる」「水銀を含まない」「従来の光源より自由な照明デザインができる」などといった優れた特徴を持っている。
しかし、良質のLED光源を作るとなると技術的に高いハードルが存在するのも事実だ。発光特性のバラツキ、微小点光源、発熱、急激な性能向上への対応などで、これらの要因を考慮した上で開発しなくてはならない。
■照明用の白色LEDは、青色発光LEDに補色のY蛍光体を付加することで作られている(LEDの青と蛍光の黄色を混ぜれば白色ということ。この蛍光体の成分を工夫することで光の特性が変わってくる)。
しかし、この構造がバラツキの要因なのだ。青色発光LED自体のバラツキは、輝度や波長、配光などに起因するし、蛍光体のバラツキは、蛍光体の粒子の大きさ、密度、塗布厚などが原因となる。これらが白色LEDの輝度や色度に大きな影響を及ぼし、安定した製品を作るのがとても難しいのである。100円ショップのLEDの品質を見比べていただければ、均一や安定したという言葉とほど遠いのが分かるはずだ。
照明器具メーカーがLED照明器具を作成するには、LEDメーカーから一定規格の白色LEDを購入して組み立てる。普通のLED光源は白色LEDを沢山並べて輝度をアップしたり、面光源にするのだが、一定規格といってもバラツキが大きく、高品質にするために品質基準を厳しくすると歩留まりが悪くなり、価格が上がってしまう。
ハジかれた白色LEDが100円ショップのLEDということなのだが、そこまで酷くないものは、集合的に特性を補正して(規準より外れたLEDを集めて、プラスマイナスゼロの平均的規準に近づける)使用するという必要悪的なノウハウを駆使してLED照明が作られているのが現実である。
■LEDは投入されたパワーのうちおよそ20%しか光とならず、80%が熱になってしまう。もっともLEDの光からは発熱を感じないが、LED素子レベルでは発熱しており、LEDは電源を入れて時間が経過するとともに温度が上昇し、効率が低下してしまう。また、青色LED素子に塗布されている蛍光体が、熱によって特性が変化してしまい、結果的に白色の製品も色温度が変化してしまうのだ。
中でも、高演色なLEDは赤系の蛍光体を利用しており、赤系の蛍光体は特に熱に弱く特性が低下しやすく、色度だけでなく演色性も変化してしまうのだ。したがってLED照明では熱対策が絶対に不可避なのだ。
■このような問題が山積なLEDなのだが、未来の可能性は大きく、おそらく現在の蛍光灯や白熱電灯は全てLEDになってしまうだろうと考えられている。
LEDメーカーも色々工夫しており、前述したように白色LED光源を面として多数配置した製品で個体差や輝度を補ったりしている。
アメリカではハリウッドが絡むと技術進歩が早くなる(デジタル映画用のDMDはその代表)のだが、映画用の照明にもこの面型LEDが使われている。映画用のLED面光源は色温度の高い(青っぽい)LED光源と低い(赤っぽい)LED光源を格子状に配置して、その強さをコントロールして色温度を調整している製品が多い。
しかし、その製品の多くは中国でハンダ付けされたものが多く、日本で再度ハンダし直したりして出荷しているものもあり、苦労は多いようだ。しかし、この辺のノウハウは信頼性には大きく影響するようで、メイドインジャパンの信頼性にはこの辺のことが大きく関与している。
■Xicato社 は、高品質なLED照明を目指して起業されたアメリカの会社で、一般的なLED照明とは一線を画するレベルの光を発するLED照明を提供している(写真1)。タングステンライトより柔らかい光(輝線ではない、幅広い波長域を含んだ光)を発することが出来るのだ。
写真1:Xicatoアーティストシリーズ
温度対策としては、独自の熱放出ノウハウと蛍光体と青色発光LEDと蛍光体の間に空気層を設けて熱対策とムラ対策を行った製品である(図2)。普通の白色LEDは蛍光体がLED素子に直に塗られているので、熱には極端に弱いのだが、そこに空気層を入れてやれば、熱対策は大幅に改善されるという理屈である。
図2:Xicatoスポットモジュール
この辺を語り出すとキリがないのだが、Xicato社のアーティストという製品は総合的な改良で図3のような幅広いスペクトル特性を有している。通常のLED光源は図4のようなふたこぶラクダのような特性を有しており、図3のような特性(まるで白熱電球)が実現できるなどとは、今まで考えても見なかったことだ。私はXicatoの光を初めて見たとき、「これだ!」っとLED技術の可能性を確信してしまった。それくらいに可能性を秘めた光だったのだ。
図3:Xicatoアーティストシリーズ・スペクトル分布
図4:Xicato一般製品スペクトル分布
印刷業界も今からLED照明のノウハウを準備しておくと、今後の展開の幅が広がるはずだ。Ra色評価指数だって、今後考え直さないといけないのだから、価値観が大幅に変わることは間違いがない。
それにしてもアメリカという国は、ITだけではなく音響や照明まで、Xicatoのような会社を生み続けている奥深い国である。物作りに関しても、まだまだアメリカから学び直さないといけないことは多い。
(JAGAT 研究調査部 部長 郡司秀明)