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生活者の視点から見てもスマホやタブレットなどが必需品として扱われている。その進化やトピックがメディアで報じられない日がない。
一時期のPCの話題に事欠かなかった頃より頻度が多い気がする。Windows8が出て騒がれているけれどもWindows95の時のような熱狂的な騒ぎにはなっていない。
電子書籍もiPadの発売とともに黒船と大いに騒がれて、2010年には元年だといわれた。Kindleがやっと日本でも発売されたが、アメリカで発売されたのは、2007年でもう5年も前の話である。進化の早いこの時代の5年間は決して短い期間とはいえないだろう。しかし、こと電子書籍に関しては時間がかかるようである。東京中心の都会でもそうだが、地方の場合や過疎地域による普及になるとさらに時間がかかるかもしれないといわれている。
小学館で長くデジタル化にかかわっている田中敏隆氏によれば、本当の電子書籍元年は、電子書籍コンソーシアムがブックオンデマンド総合実証実験を行った1999年から2000年にかけての頃を指すのではないかということである。電子書籍先進国のアメリカでOpen eBookがまとめられたのも1999年であった。
電子書籍は、読書家にとって新たな価値を生む福音となりうるか。そもそもなんのためのデジタル化なのだろうか。コンテンツをデジタル化することにより、それまで紙に印刷し、製本して、書籍化するといった工芸作品的な製造工程が崩れていく。
デジタル化されていれば必ずしも紙である必要もなくその選択肢が増えるということである。だから考えようによってはそれが、タブレットでなく紙がよければ紙になる。しかし、そうはいっても「ボーンデジタル」はもはや比喩的な意味ではなく当たり前の状況になりつつある。
出版社の動きはどうなのか。例えば、小学館では三浦綾子生誕90周年と小学館創業90周年を記念して、「三浦綾子 電子全集」の刊行を企画している。2012年10月12日に配信を開始し、順次2週間おきに配信していくスケジュールになっている。当然なのかもしれないが、第1回目の配信は、著者のデビュー作であり、代表作でもある『氷点』の上下巻と『銃口』の上下巻の4冊である。付録として、懸賞小説の当選発表記事や受賞の言葉などを収録している。
先日東京・神田の古本市に行ってきた。今年で53回目を数える歴史ある青空古本市である。学生時代からほぼ毎年のように通っているのだが、人出が減ったと感じることはなく、相変わらずの風景で、ある人々には秋の風物詩といった趣がある。最近とみに言われる「全集が底値」の噂を確かめるのにもいい機会であった。詳細は省くが、自分が20数年前に80,000円で購入したある作家の全集が15,000円で売られていた。今のうちに全集を買い占めてそのうち希少価値になっていくかもしれないと余計なことを考えてしまった。
必ずしも古本=出版市場とはならないと思うが、本を求める層は決して減っていないというのが実感できた。しかし、工芸作品化していくような気がしないでもない。
2011年の出版市場は1兆8042億円、かつてはその割合の大半以上を占めていた雑誌は1兆円割れとなった。電子書籍市場は629億円といわれまだ規模は小さいが、着実に各社のコンテンツが整備されつつある。
読売新聞10月21日(日)の朝刊に報道された「全国世論調査」によると、この一ヵ月間に本を読んだ人は48%で本を読まなかった人は51%だった。この数字をそのままみると半分の人が本を読まないことになる。同調査では、電子書籍については、利用したことがあるし今後も利用したいと答えた人は、6%にとどまった。逆に今後も利用しないと答えた人は69%にものぼった。
この数字はどう考えればよいのか。そもそも本(書籍)を読む人は限られており、そういう人々は紙の本に愛着があるので減らないという意見もある。
今後デジタルを切り口にさまざまな試みが出てくるだろう。電子書店とリアル書店のハイブリット型しかり。印刷会社がそこに関わるとしたらコンテンツそのものの価値を生む手伝いができるか、これまで培ってきた技術をどう活かせるかを考えるべきだろう。特に出版印刷を営んでいる場合は、何年後かの読書のあり方、読者像、出版社の動向はいやおうなしに知っておく必要がある。
メディアの発展の根底には、やや小難しく言えば、「近代的自由が進化していくこと(JAGAT元副会長・和久井孝太郎)」がある。もっと俗っぽく言えば、人間の欲望の発露であるから、面白くて、安価で、使いやすいものが選択される。だからより使いやすさを求めた結果、人々の欲求に合致したものが開発され選択される、それだけのことである。
かつての書物を電子化していく流れと最初からデジタルで作成されていくものにも注目していきたい。コンテンツの扱い方も知恵を出し合って最適なものを考えていくことになるだろう。いずれにしてもますます目が離せない状態にあることは間違いなさそうだ。
出版業界全般の動向と大手出版社のデジタル事業の実例を知る。記事にも触れた小学館のデジタル事業局ゼネラルマネージャー田中敏隆氏に登壇していただく。
2012年11月26日(月)14:00-16:40(受付は13:30より)