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印刷会社は顧客のコンテンツを加工して印刷メディアに仕上げる生産活動を主な収益源としてきた。近年、こうしたコンテンツ加工のノウハウを活かし、自らコンテンツを企画開発、保有しようとする印刷会社が増えている。メディアとは入れ物であり、コンテンツとは中身であると考えればよい。メディアにコンテンツが入ったとき、印刷メディアは単なる工業製品以上の価値を生む。単なる箱も一流ブランドのロゴが印刷されれば高級品になるし、白紙の冊子も文章が印刷されて初めて書物としての価値を持つ。
我が国コンテンツ産業の規模は12兆460億円(2011年)であり、10年前(12兆4000億円)とほとんど変わらない。印刷物の減少、インターネット利用者の増加などメディアは変化してもコンテンツ需要は変わることなくあり続けることを意味している。印刷会社が独自コンテンツを持とうとするとき、印刷会社の地域商圏の風景や物語、歴史、人物、特産品といった地域の独自性は有力候補の一つになる。地域性は、それ自体が既に他地域にない唯一無二であり、うまく加工できれば差別化された収益力あるコンテンツになり、地域活性の効果も期待できる。
2012年11月24日から2日間、埼玉の羽生水郷公園で「ゆるキャラ®さみっとin羽生」が開かれた。ゆるキャラとは「ゆるいマスコットキャラクター」の略で、企業や自治体などがCIやPR、地域活性の一環として取り組んでいることが多い。主催者によると来場者数は2日間で29万5千人を数えたとのことで、当日は最寄りの羽生インターから会場まで1.5キロが車で40分かかるほどの混雑ぶりだった。公園内に入って人混みの中をかなり歩くと広大な会場の広場に着く。広場にはどこから見ればいいか迷うぐらいのゆるキャラが並ぶ。
東京ディズニーランドはミッキーに出会えると「ラッキー」という感じだが、ゆるキャラさみっとはゆるキャラがウヨウヨいて愛嬌を振りまいている(振りまいていないのもいる)。全国と世界から265キャラが集結とのことで、いちいち写真など撮っていると前に進まない。もはやどこのなんというゆるキャラかわからない着ぐるみも多い。会場は家族連れも多く、あちこちでゆるキャラとの記念撮影が繰り広げられていて微笑ましい。全国からご当地自慢のB級?グルメも集結していて食べるのも目移りする。
2日目に発表された第3回ゆるキャラグランプリでは、大賞を「バリィさん(愛媛)」が獲得、2位は「ちょるる(山口)」、3位は「ぐんまちゃん(群馬)」だった。「バリィさん」は第一印刷(愛媛県今治市)、「ぐんまちゃん」は朝日印刷工業(群馬県前橋市)、5位のふっかちゃんはたつみ印刷 (埼玉県深谷市)と、上位には印刷会社の関わるゆるキャラが多く見られた。「バリィさん」グッズの売れ行きは好調だったようで空き箱の山が積み上げられていた。
ゆるキャラに限らず、中小印刷会社にとって独自性あるコンテンツを持つことは、従来型の印刷需要増加を見込みにくいなか、自律的な成長性を考えるうえで有力な選択肢の一つであり、ゆるキャラさみっとを見ていてもその動きが各社で具体化しつつあることがわかる。印刷会社は日常から地域情報の加工をビジネスとして地域を知り尽くしている。つまり、コンテンツ市場は印刷会社にとっても有望な分野であり、印刷会社は地域活性ビジネスや地域のコンテンツビジネスの担い手として、最有力プレイヤーの一人といえる。
(JAGAT 研究調査部 藤井建人)
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2013年2月8日(金) page2013カンファレンス
「印刷会社と地域活性ビジネス2013」