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現実に存在するあらゆるメディアを駆使し、架空の世界でありながら現実に存在するかのような演出を行うと効果的である。
ARGとはAlternate Reality Gameの略である。日本語では「代替現実ゲーム」と訳されることが多い。現実の世界に架空の世界を重ねあわせることで、参加者が普通の遊びをするよりももっとドキドキやワクワクを感じられるという手法である。
注目を集めているARと名前が似ているが異なるものである。ARは「Argumented Reality」であり、「拡張現実」と訳される。ARは現実を「拡張」するものであり、ARGは現実を「代替」するもの。
ARGは現実を利用するため、現実に存在するあらゆるメディアを利用して、架空の世界を表現する。このあらゆるメディアを利用するということが最大の特徴である。日常的に利用しているメディア=紙であったりテレビであったりスマートフォンであったり、そういった日常で接しているメディアから情報が来ることで、本物であると感じられる。日常の中から非日常を体験してもらうためである。
海外でARGという名称が生まれたのが2001年。まだ海外でも新しいプロモーション手法である。一番最初のARGとされているのが、映画「A.I.」のプロモーションとして行われた「The Beast」という名称のARGである。
この効果が非常に高かったことで注目を集めた。日本国内では2008年頃から認知されはじめた。当初は海外のARGをそのまま輸入してくるパターンであったが、国民性の違いもあって、日本人にあわせたものを行うようになってきている。
The Beast
2001年に行われた世界初のARGである。映画トレーラーのスタッフクレジットに「知覚機械セラピスト:ジェニン・サラ」という名前がクレジットされていた。その役職名を不思議に思った人々が検索してみると、実際にWebサイトなどが見つかるのだが、それらは映画「A.I.」と世界観を共有する架空のものであった。つまり未来の設定のWebが現実に見つかる。さらにメールアドレスや電話番号なども準備されていてコンタクトできた。
物語はとある殺人事件の調査解決に参加者が協力する形で「A.I.」のプロモーションに繋げている。制作コストは1億円以上であったが、主要メディアで広告インプレッションが3億回以上となった。
Perplex City
別の惑星から盗まれて地球に隠されたキューブを探すという設定。キューブ発見者には賞金20万ドルが用意された。
カードゲームとの連動である。キューブを探すための手がかりはカードに隠されており、カードショップで購入する。スポンサードの「The Beast」とは異なり、こちらは完全独立型ARGとして注目された。パズルカードに謎解きや交換などソーシャルな側面を持たせることで、コミュニティ構築へと繋げていた。
Cathy's Book
書籍型のARGである。リアルタイム性を排除し、購入した時点で最初から参加できるものである。とある女性が失踪して、その女性が失踪直前まで書いていた日記が出版されたという設定。日記のなかには失踪にいたる手がかりが散りばめられているほか、おまけ(レシートや手紙、写真など)も付属している。また、日記内に書かれた電話番号にも実際にかけることも可能で、没入感を演出した。
Why so Serious?
大ヒットした映画「ダークナイト」のプロモーション。「ビギンズ」と「ダークナイト」の間を埋める物語としてARGを一年近く展開した。物語の中のある市長を当選させるための選挙活動に参加する。あらゆるメディアを活用し、「360 EXPERIENCE」と名付けられた。
1,000万人のユニークユーザが参加し、ゴッサムタイムズ(架空の新聞)は700万回読まれた。1,300件の動画がYouTubeにアップされ、5,000件の写真がFlickrに投稿された。映画も大ヒット。
名探偵コナン カード探偵団
国内初の本格ARGである。「名探偵コナン」と連動したパズルカードゲーム。単純にカードパズルとして遊ぶことも可能。このカード制作者が失踪しているという設定で、その手がかりがカードの中に隠されている。この謎解きにコナンが挑み、参加者もコナンと共に巨大な事件に関わっていくことになる。
第一弾は数十万パッケージを販売し、カードゲームとしては異例となる20代30代女性に訴求効果をもたらした。
サーティナイン・クルーズ
全世界展開の小説型ARG。全世界に散らばった手がかりを追う一族の物語だが、最後まで読み進めると読者自身も一族の末裔であることが判明することから始まるARG。表紙やノンブルなどにも手がかりが隠されているほか、Webサイトとの連動、海外ではパズルカードの販売も行われている。
全米児童書ランキングで1位を獲得。国内でも売れている。
ぼくらの選択
群馬県水上町でのARG。町の認知向上と観光客誘致を目的とした町おこしARG。水上町で架空企業による土地買収計画が起こり、それを防ぐために参加者に助けを求めるという内容。町が全面的にバックアップ。
レイ・フロンティアのAR「LiveScopar」と連動し、現地に参加者を誘導するプロジェクトとなった。
世界侵略:日本決戦
映画「ロサンゼルス:世界侵略」のパッケージ流通増を狙い、認知向上と世界観の事前学習を兼ねたプロモーション。現実にUFOが侵略を企てているという設定のもと、危険を政府に警告する組織の日本支部のサイトが立ち上がる。そこでは映画の登場人物からUFOによる危険が迫りつつあることを知らせるモールス信号など、様々な情報を入手することができる。雑誌「ムー」とも連動した。
ARGとは、現実に架空の世界を重ねあわせ、参加者が普通の遊びをするよりももっとドキドキやワクワクを感じられる手法のことである。そのためには、現実に存在するあらゆるメディアを駆使し、架空の世界でありながら現実に存在するかのような演出を行うと効果的である。
一昔前は企業からの押しつけ広告が主だったが、ARGはそれを解消する回答のひとつとなっている。参加者に参加してもらい、広告塔になってもらう。自分と同じ立場にいる人々からのレビューのほうが、信ぴょう性が高まる。面白いと感じ、モチベーションが高まる。
近年では、ゲームのもつ特性を活かし、仕事や勉強に取り入れる「ゲーミフィケーション」という概念も注目されており、取り入れる企業が増えている。
現状では海外に比べるとコスト感が小さい。必然的にTwitterやFacebookなどで出来るローコストなものが多い。
イベント参加型などで、例えばドアを開く鍵などのアイテム(ガジェット)の造り・素材に凝っていなくてチープなものが多い。IT系では認知が広がっているが、アナログ系にはほとんど知られていない世界でもある。
紙は背景や歴史を見た目・触感で即座に伝えることのできる重要なツールである。ファンタジーなら羊皮紙は欠かせない。そもそも2001年以前からARG的なものは存在しており、そのほとんどは紙媒体によるものだった。
ARGの求める紙は、実施するゲームの内容によって大きく異なる。ただ印刷するのではなく、「こういう背景であれば、このような紙・印刷方法がいいかもしれない」といった提案で組めるとよい。
※2012年7月開催「紙メディアを効果的に活用しクチコミを誘発する」(講師:八重尾昌輝氏、田村建士氏)より抜粋
八重尾昌輝氏、田村建士氏はpage2013クロスメディアセッションでも登壇!
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クロスメディアビジネスのヒント2013(ARG、フォトモザイク、スマートテレビ)
(JAGAT 研究調査部 木下智之)