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電通が2月21日に発表した2012年の広告費総額は、前年比3.2%増の5兆8913億円であった。5年ぶりの前年比増になり、東日本大震災前の水準を回復した。
■広告費は5年ぶりのプラス前年比3.2%増
毎年2月下旬に電通が出している『日本の広告費』は、広告業界の市場動向というだけにとどまらず、あらゆる産業の指標の一つにもなっている。広告は、社会の動きや消費者のライフスタイルによって大きく変化していく。それは、企業の販促活動に影響を及ぼすことになる。
つまり広告市場をウォッチすることは、世の中の仕組みやビジネスのトレンドを探ることに大いに役立つのである。当然、印刷需要を左右することにもなる。
では具体的な数字を見てみたいが、その前に2011年の状況を復習してみよう。2011年は東日本大震災で広告出稿が延期になったり、自粛によるキャンセルなどマイナスの影響を受けて、前年比4年連続の減少となった。これは電通が日本の広告費推計を開始して以来の初の連続減少であった。
特に新聞や雑誌などの印刷メディアの広告費の落ち込みがはげしかった。これは、広告主の出稿の自粛ムードのほかに、震災によってエコ意識や節電モードがさらに高まった結果といえるかもしれない。
2012年は、『2012年(平成24年)日本の広告費』によると総広告費は5兆8913億円と前年比3.2%増となった(2011年は5兆7096億円)。5年ぶりに前年実績を上回った。広告自粛のムードから復興のために応援の機運へと転化していったことが要因として挙げられるだろう。その他ロンドンオリンピックの後押しがあった。
ただし、オリンピック後には、エコカー減税・補助金終了の影響による個人消費の減退、円高、欧州経済の低迷、輸出の減少などによる景気後退のあおりを受けて、後半は減少傾向にあるとしている。しかし、それでもマスコミ四媒体広告は震災前の2010年の水準を上回る2兆7796億円になり、活性化したといえるだろう。
■衛星メディアの躍進とインターネット広告
マスコミ四媒体の中でも「ラジオ広告費」が、99.9%でほぼ横ばいであった。それ以外は前年を上回る伸び率で推移している。「テレビ広告費」が前年比3.0%増の1兆7757億円であり、印刷媒体である「新聞広告費」は前年比4.2%増の6242億円、「雑誌広告費」が前年比0.4%増の2551億円である。
また屋外広告、交通広告、DM、折込広告などの「プロモーションメディア広告費」は、前年比1.4%増の2兆1424億円である。
「衛星メディア関連広告費」は、前年比13.7%増1013億円と3年連続で2ケタの伸びを示した。これはオリンピックの衛星中継でBS放送などが好調だったためであると思われる。 広告業界が厳しい中でも、電通が推計を開始した1996年から常に右肩上がりのプラス成長を続けている「インターネット広告費」は、前年比7.7%増の8680億円と相変わらず好調である。これはスマートフォンやタブレットの売れ行きが好調であることやそれに伴いSNSなどのソーシャルメディアによるコミュニケーションが盛んになっていることも関連しているだろう。2013年度もこの勢いが続くと見られている。
■消費の行動変化とシナジー効果
広告業界が上向きになったことは、印刷業界にとっても明るいニュースである。もちろん紙媒体のメディアでは直接影響を受けるからだ。ただし、これからますます広告の手法にも変化が起きるだろう。媒体ごとの出稿という発想ではなく、マーケティングごとの視点に変わってくるかもしれない。媒体価値向上の視点で考えるとプロモーション全体像から見ていくことも必要になる。
広告主側も新たなコミュニケーションの手法を試みている。ある特定の媒体に限るのではなく、たとえばソーシャルメディアとテレビ広告、ネットの動画サイトと紙の折込広告などを複合化していくメディアシナジーを検討している企業が増えている。
「メディアシナジーを起こして媒体価値を増加させ、かつ投下コストに見合う効果効率を最適化するという動きは続いていくものと思われる。」(『印刷白書2012』)。
広告もKPI(重要業績評価指標)が視聴率やPV(ページビュー)といった分かりやすい数値ではなく、実際にどれくらい資料請求や商品購入があったかというコンバージョンレートを高めることが重要視されている。
印刷会社も顧客のコミュニケーション支援をして、プロモーションのお手伝いをするならば、消費者の行動変化を見ていくべきであろう。生活者への情報の届け方が直線的ではなく、複雑多様化しているからである。そのためにソーシャルメディアの動向や刻々変化するメディア環境やトレンドに敏感になる必要が出てくるのである。
(JAGAT 研究調査部 上野寿)
2013年3月6日(水)14:00-16:30(受付は13:30より)
電通の『日本の広告費』をベースに広告費の媒体別の動向、業界別の動向、そして『情報メディア白書2013』より2013年以降のメディア環境を探ります。
またニワンゴの杉本誠司氏が「スマホ時代のメディア環境――niconicoとメディア変革」として、ソーシャルメディアの実例や新たなメディア環境、プラットフォーム、参加型メディアビジネスなどについて語ります。