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電子書籍は今後、従来読書の置き換えとしての専用端末向け市場とひまつぶし消費としてのスマートフォン向け市場があると予想される。
2010 年はiPad が登場した年である。iPad の発表時のプレゼンでも、まるで紙の本と本棚が電子の世界に入り込んだかのように紹介された。ページのめくり方が紙を模したものであったり、タッチして購入した書籍が本棚に納められたりといった具合にである。
この「触れる」端末が登場したことで、誰もが「デジタルの本が現れた」のだと直感的に感じた。
2011 年になると、電子書籍書店の新規参入が相次ぐ。「Reader Store」「BookLive!」「honto」「紀伊國屋BookWeb Plus」などがサービスを開始した。出版社による自社書店アプリも増加した。アップルによりアプリ単発でリリースするのではなく、ストア形式が推奨されたためでもある。しかしこのことで、ストア型アプリが増え、読者には本を探しづらくなった。
出版社ではなくIT 系企業による電子書籍アプリが急増した。お悩み系・アダルト系・ハウツー系のカジュアルに読めるコンテンツはiPhone、iPadのユーザーをターゲットにできていた。しかし最低価格である85 円まで値下げ競争が進み、たちまちレッドオーシャンになった。
2012 年はスマートフォンの急速な普及により、コミックやライトノベルの売り上げが増加していく。これも上述の電子書籍アプリと同様に、スマホユーザーに消費しやすいコンテンツがマッチしているといえる。
また2011 年10 月にEPUB3仕様が確定したことで、2012 年はEPUB3 の普及が促進された。出版デジタル機構が4 月に発足し、7 月には楽天kobo が参入。kobo はEPUB をサポートしたため、コミックや文芸のEPUB化が進んだ。
そして、10 月にAmazon もKindle ストアをオープンした。ユーザーにとって、これまで利用していたAmazon で紙の本と同じような感覚で電子書籍が買えるようになった。また、価格の比較により電子書籍が安いということにも気づく。アメリカではKindle の出荷台数が2010 年時点で累計1000万台を突破している。2007 年11 月にKindle は登場し、2009年2 月に発売された「Kindle2」が軽量化、容量増加により人気に火が点いた。2010 年には実に800 万台も出荷された(Forrester Research などの数字からの推計値)。
当初からKindle のユーザー層は40 代-50 代の女性であった。主婦が中心であり、売れ筋はロマンスもの。現在でも「Fifty Shades of Grey」シリーズが大ヒットしている。これも主婦向けのアダルト系コンテンツである。電子書籍がヒットし、紙版もベストセラー入りしている。
電子書籍の今後として、二つの方向性があると予想される。
一つは電子書籍専用端末向けの市場。読書が趣味であり、文芸ものやコミックを読む人たちが、これまで紙の本を買っていたのに加え(置き換えも)、電子版を読むということである。
もう一つはスマートフォンでのコンテンツ消費である。暇つぶしのための読書であり、読書というものを再定義するものである。
プロモーションは高難度化する。無名新刊は紙の本以上に厳しくなる。一般的に、紙の書店というものは、店内で平積みやPOP などの販促手段もあり、目に飛び込んでくる点数が多い。しかし電子書店になると、どうしても一望性に難がある。ランキング上位や新着以外での告知手段がない。電子書籍では、「Gene Mapper」などが話題となりランキング上位に食い込むなど、新たな動きが起こり始めている。
Kindle ストアで自分のコンテンツを販売する手段が開かれたことにより、ますます自分のコンテンツを見つけてもらうための手法が問われる。
(『JAGAT info』2013年2月号より抜粋)
2013年03月15日(金) 13:30-16:30
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