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印刷会社は地域の情報加工の拠点であるが、3次元のものづくりの拠点にもなりうるのか。3Dプリンターの技術進歩が印刷ビジネスにもたらす影響について。
3Dプリントビジネスは装置産業的であり、受注産業的である点において印刷ビジネスに似ている。1990年代、印刷会社がDTPオペレータ育成を急いだその裏側で、金型製作所や部品製造会社は3D-CADオペレータの育成を急いでいた。DTPの出現が印刷工程を劇的に変えたように、3D-CADの出現は金型などの納期を劇的に縮め、技術革新のスピードを早め、製品ライフサイクルを短縮してドッグイヤー時代を到来させていたからだ。
3Dプリンタの技術進歩は金型不要のものづくりを可能にし、ものづくりのロットを極小にした。デジタル印刷の技術革新が版不要のダイレクト印刷を可能にしたように、3Dプリンタはものづくりにおいて金型不要のダイレクト生産を可能にした。そうすると、2次元の印刷が廉価で良質なパーソナルプリンタの普及で家庭に入り込んだように、3次元のものづくりが家庭に入り込んでいく可能性も現実味を帯びてくる。
美しい造形がプリントできる 写真:(有)コスモ・ファンシー
米国はWeb to 3Dプリントのような動きが先行し、3Dプリントのネット受注サービスはもちろん、作った3Dプリント作品の販売サービスを備えたワンストップのウェブサイトまである。個人が製造者になるどころか販売者にまでなれて収入を得られる。製造業の設備投資は高い参入障壁として新規参入者の前に立ちはだかってきたが、金型レスで容易にものづくりができると、かつてあった生活者と企業の間の越えられない壁は、これからどこまでも低くなる。
躍動感ある高質なフィギュアもバリアブルプリント 写真:(有)コスモ・ファンシー
このような変化は社会に何をもたらすか。起業のハードルが低くなり、個人も製造業を容易に起業できるようになる。地価の安い不便な場所に大規模な工場を作って大量生産しなくても、必要なときに必要な場所で必要なだけ作れば良くなる。チャイナリスクなどによってものづくりは国内回帰の動きが既にあるが、生産ロットの劇的な極小化は、ものづくりの地産地消化をさらに進める可能性がある。
様々な素材を材料に複雑なものもプリントアウト 写真:(株)スリーディー・システムズ・ジャパン
その時、全国に29,000ある印刷事業所は、3Dプリンタを利用して地域のものづくりの拠点となりうるか。印刷事業所が全国にこれだけあるのは印刷物が地産地消製品であるからだ。印刷会社が地域密着の地産地消製品を扱うノウハウに長けている点において、印刷会社は従来の2次元だけでなく3次元も含めた地域のサービスビューローに発展していく可能性を持つ。ただしそれは、3次元の技術を獲得し、プリントの概念をうまく3次元へ広げて2次元とのシナジーをうまく得た場合に可能と思われ、その手法は様々な可能性を選択肢に含め考えるようにしたい。
(JAGAT 研究調査部 藤井建人)
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