本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。
日本百貨店協会が2013年4月18日に発表した3月の売上高総額は、5447億円で、前年同月比3.9%増であり、7年ぶりに3カ月連続増になった。消費者の購買意欲が高まったのであろうか。
■百貨店業界の売上と印刷出荷額の関係
印刷需要拡大の要因はさまざまあるが、景気の動向や個人消費の影響、またそれによって変化する他業界の状況などに影響を受ける。
では、個人消費意識がまともに左右される百貨店業界はどうなっているのか。『印刷白書』に掲載している図表に、百貨店業界の売上高と印刷業界の出荷額を比較したものがある(図表)。
産業連関表の「最終需要項目別生産誘発額」を見ると民間消費支出が圧倒的に大きいことから、個人消費の増加が印刷産業の出荷額を引き上げていることがわかる。つまりこの図表は、産業連関表により導き出された「個人消費が印刷需要を左右する」の仮説のもと数字を比較したものである。
売り上げのM字カーブがほぼ同じで、金額の数字も近似値で推移している。これは以前、某新聞社の方と消費者の行動変化と小売業の動向の関連性の話をしているときにふと気づいて、調べてみたのがきっかけであった。
だからこのまま百貨店の売り上げが上向きに推移するのであれば、広告費増 とあわせて印刷需要も多少の期待が持てるような気がする。
ちなみに今年の3月27日に公表になった「平成23年簡易延長産業連関表(簡易表)」によると最終需要項目別の国内生産誘発依存度(つまり国内生産がどの最終需要にどれだけ依存しているか)をみるとやはり「民間消費支出」が46.1%と最も高い。
■デパートで遭遇した私的なできごと
閑話休題。私事で恐縮だが、親戚の子供の卒業と就職祝いに何か贈り物をしようとデパートに行った。あれこれ物色をした結果、通勤用バッグを購入することにした。店の人に相談をしながらいくつか候補になるものを目の前に並べた。現物を手に取って見てアドバイスを受けるとさすがに薦め方が上手なのか、なるほど使い勝手がよさそうに思えてきた。
気に入ったものを購入しようとすると「ではただ今調べてまいります」と言って奥に引っ込んだと思ったら「申し訳ございません、この商品は品切れです。お取り寄せで4日ほどかかります」とのことであった。これにはびっくりしたが、別の商品を頼んでみるとやはり4日かかりますとの返事であった。ためしにさらに別の商品を頼んでみたらやはり同じであった。立て続けに3商品とも在庫切れだったのである。なぜ老舗のデパートともあろうものが在庫のない商品を平気で陳列しているのか理解できなかった。
少々意地になって、今度は別のデパートに行って同じことをしてみた。ところがそこでも店員のセリフまでもが全く同じ。「申し訳ございません、この商品は品切れです。お取り寄せで4日ほどかかります」とのことであった。
取り寄せるのに4日かかるのがスタンダードなんだということが分かったが、せめて在庫の有無を明示しておくくらいはあってもいいんじゃないか、それがホスピタリティではないか。このスピード時代に4日もかかるとは時代錯誤も甚だしい。品物さえ決まっていればネットで買ったほうが早くで確実だ。しかし、同じ日に違う店でこうも続くと別の考えも浮かんでくる。
■できることはなにか考えてみる
この時期バッグは売れ筋なのだろう、だから品薄になっている。人気商品で売れ行きが好調なのかもしれない。だったらそれを上手に利用する手段を考えるべきではないか。実店舗の優位性をもっと生かした展開だって可能なはずだ。
ネットと実店舗のハイブリッド型でいくことも一つの選択であろう。両方から情報収集し、分析してマーケティングに生かすことも考えられる。ITを駆使して「店舗への導線強化」をはかり、そこでしか得られないエクスペリエンスを提供する。
特に百貨店などは、書店と同じようにリアル店舗で、探していたもの以外に目に飛び込んでくる魅力的な商品に出くわすことがある。いわゆるシャワー効果が見込めるのも立地条件に優位性があるからだ。それはレコメンドとも違うリアルならではの出会いの場であるはずだ。だから人はわざわざ時間をかけて訪れて、実物を手にしてから購入する。その長所をうまく生かさない手はないはずだ。
それこそ本屋さんにおける手書きのPOPを作ってもいい。もっと極端なことをいえば、本屋大賞のような「デパート店員が選ぶ社会人一年生に贈る通勤バッグアワード」などを百貨店業界全体として考えてみてもいいのかもしれない。
■売れるためのビジネス支援をするには
百貨店業界の売り上げが伸びているのは、人が戻って来ているのか、この時期だけの特徴なのか、それともアベノミクスの経済波及効果のおかげなのか、詳細はわからないが良い兆候には違いない。
どこ(だれ)に対して何をどう売っていくべきなのか、印刷会社がトータルソリューションをしていくならば、販売促進のお手伝いは重要だ。自分がその店の客として訪れた時にどう思うか? O2Oなども真剣に考えてみる必要がある。顧客と一緒になって知恵を絞って行くべきであろう。
『印刷白書』は今年もまた編集体制をスタートさせていく。印刷業界とだいたい似たような市場規模の産業は、百貨店業界以外にも広告業界もあるし、通販市場が5兆円であるなどいくつかある。そのいくつかの産業と印刷産業の相関関係をみていくのに産業連関表はひとつの指標となるので、『印刷白書』をぜひ活用していただきたい。
(JAGAT 研究調査部 上野寿)
参考 『印刷白書2012』
2013年版は、価値創造をより具体的に提供するためにするべきこと、新しい領域にビジネスモデルを作るためのシナリオも取り上げたいと思っています。また数字で語る白書を目指し、皆様のお役に立つものを企画・編集していく所存です。