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セルフパブリッシングにより、今まで存在しなかったような出版物が生まれる可能性も出てきた。
2012年10月にアマゾンのKindleストアがスタートして以降、国内における電子書籍マーケットが一気に活発化してきた。
電子書籍の販売部数や比率は未発表で現時点で正確に把握することはできないが、出版社などの関係者によると、相当の手応えがあるとのことである。これまで電子書籍の本格化に懐疑的だった空気が、一変してしまった。
なぜ、Kindleストアを利用するのか。利用者の声を総合すると、まず、以前からアマゾンで書籍を頻繁に購入していたことが挙げられる。
既にアカウントを登録しているため、Kindle本を購入することに抵抗が少ない。むしろ、書籍(印刷本)より10~20%程度割安に価格設定されており、誘導されやすい。
次に、アマゾンならではの使いやすさと安心感がある。Kindle本はKindle端末を所有していなくても、タブレットかスマートフォンがあれば、簡単にダウンロードして読むことができる。ダウンロードの回数や期限に大きな制約はない。万一、端末を損傷したり、紛失しても、問題ないようである。
言い換えると、国内にはこのような条件を満たす電子書籍ストアがなかったというのが実状であった。
Kindleストアのもう一つの特徴として、Kindleダイレクトパブリッシング(KDP) の存在がある。KDPは、専門の出版社だけではなく、一般の個人や企業でも電子書籍を制作して、出版・販売することができるセルフパブリッシングのプラットフォームである。電子書籍版の「自費出版」と見る向きもあるが、従来の延長ではなく、新しい出版の可能性を秘めているとも言える。
KDPは、比較的、簡単な操作でテキストや画像を電子書籍フォーマットにすることができるため、制作コストがほとんどかからない。これまでメジャーな出版社にとって対象とならなかった書籍が、個人などの手によって出版されるようになる。
たとえば、趣味やビジネスなどさまざまな分野で、既にブログを運営して独自のコンテンツを発信されている方がいる。このような人々にとって、電子書籍によるセルフパブリッシングは、自己のメッセージや表現を発信する、魅力的で重要な機会となる。
実際、アマゾンで検索すると、セルフパブリッシングするためのハウツー本も数多く出版されている。
例えば、フリーランスで活動しているコンサルタントであれば、そのノウハウや過去の事例を書籍化・出版することで、営業活動に役立てることもできる。
料理研究家であれば、料理に関するエッセイやレシピを出版することで、実力や魅力をアピールすることもできるだろう。
また、これまでにも、巨大掲示板サイトで発信されたストーリーが書籍として出版され、ドラマ化されるということもあった。ケータイ小説がブームとなったこともある。
藤井大洋氏は、始めて執筆したSF小説『Gene Mapper (ジーン・マッパー) 』をセルフパブリッシングにて発売し、あっという間に売上ランキング1位となって評判になった。もちろん、内容が評価されて人気となったことに間違いないが、自身のブログで関連情報を発信しており、セルフプロデュースにも注力していたとのことである。その後、改めて早川書房から書籍版を出版している。
漫画家の鈴木みそ 氏は、『限界集落(ギリギリ)温泉』というオタクによる地域の再生をテーマにしたKindleコミックをセルフパブリッシングして売上を伸ばし、評判となっている。内容が優れているのはもちろんである。
メジャーな出版社から見ると、セルフパブリッシングは大勢に影響がない個人出版、少部数出版でしかないかもしれない。しかし、今まで存在しなかったような出版物が、KDPをきっかけにして生まれてくる可能性も大きいのではないだろうか。
(JAGAT 研究調査部 千葉 弘幸)
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