クロスメディア考現学 (2) 3Dプリンターとオープンイノベーション
掲載日: 2013年05月21日
「クロスメディア」というキーワードから想起されるビジネスやサービスの「現在(いま)」を毎月再考していく。
クロスメディア考現学(2)
印刷業界ではすっかり浸透した「クロスメディア」というキーワードから想起されるビジネスやサービスの「現在(いま)」を毎月再考していくのが本連載の試みです。
『MAKERS』(クリス・アンダーソン 著 関 美和 訳 NHK出版)が2012年10月に刊行されたのをきっかけにして、3Dプリンターが新聞やテレビの話題にのぼることが多くなっています。
ちなみに私は、ご覧のように紙の書籍版に加えて、アマゾンのkindle版を購入したので、iPhone、iPad、Kindle Paperwhite、Kindle fire HDとデバイスを横断しながら読み進めていましたが、結局アンダーラインやメモの入力の簡便さからKindle fire HDで読了しました。
3Dプリンターは、通常の平面に印刷するのではなく、液体樹脂などを使って3次元のオブジェクトを立体的に造形するデバイスのこと。「モノのインターネット」化が進み、アトム(ハードウェア)とビット(ソフトウェア)の境目があやふやになり、製造業全般に大きなムーブメントが起きつつあります。
オバマ大統領は、2012年のはじめに今後4年間で1000カ所の学校に、3Dプリンターやレーザーカッターなどを完備した「工作室」を開くプログラムを立ち上げ、さらに2013年2月12日に行った一般教書演説でも3Dプリンターについて言及し、アメリカが「新しい仕事と製造業の磁石」になるよう注力するよう提案を行いました。
『フォーブス』誌の発行人であるリッチ・カールガードは、「3D印刷は、2015年から2025年のあいだに世界を変えるテクノロジーになるかもしれない」と発言。アメリカの製造業復活のためのキーワードとして3Dプリンターは捉えられています。こうした流れから日本でも3Dプリンターへの注目が高まっているようです。
しかし、『MAKERS』を読了した時に自分が一番強く感じたのは、3Dプリンターというデバイスそのものではなく、インターネットによってオープンになったデザインや研究開発のプラットフォーム、キックスターターなどの資金調達のプラットフォーム、そしてマーケティングのプラットフォーム(ビットを与えればアトムが売れる)といったものが組み合わさった「オープンイノベーション」が『MAKERS』の本質的なテーマだということです。
これまでの会社組織や製造のモデル、サプライチェーンのモデルを変革させる、こうしたメイカームーブメント全体をしっかりと理解しないで3Dプリンターというデバイスにのみ注目すると、変化の本質を見失うことになってしまうようで危惧しています。
次回6月25日 に続く。
一般社団法人 電子出版制作・流通協議会
池田 敬二
1994年東京都立大学人文学部卒業後、大日本印刷に入社。入社以来、出版印刷の営業、企画部門を歴任。2010年より一般社団法人 電子出版制作・流通協議会 事務局に勤務。趣味は弾き語り(Gibson J-45)と空手。JAGAT認証クロスメディアエキスパート。日本電子出版協会クロスメディア研究委員会委員長。JPM認証プロモーショナルマーケター。
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