本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。
機関誌『JAGAT info』の表紙は「世界の色」をテーマにデザインしている。その考え方と制作過程について。
機関誌『JAGAT info』は、会員企業の方々や外部執筆者の協力を得ながら、協会内で編集制作を行っている。表紙についても、2012年6月号から協会内でデザインしている。表紙では、公益社団法人としてJAGATが担う印刷の普及・啓蒙という役割を、デザインの視点で表現しようと試みている。
現在は、印刷にとって重要な要素の一つである「色」をテーマに、色の豊かさとデザインの楽しさを読者の方々にお伝えしたいと、毎号工夫を重ねている。昨年度の「日本の伝統色シリーズ」全9回を受け継ぎ、今年4月からは「世界の色シリーズ」に移行した。世界各国の文化事情を汲んだ伝統色を、その国を代表する文化と絡めて表現し、併せて季節感も演出しようと試みている。
●テーマと素材の選び方
国を選ぶ際は、以下の点を念頭においている。
・発行月の日本の季節感に合うイメージをもつ国を選ぶ
・日本人にある程度馴染みがある国を選ぶ
・特定の地域に偏らず、様々な国を取り上げる
色については、以下の点に留意している。
・その月の日本の季節をイメージできる色
・その国のナショナルカラー、その国で好まれている色
・日本の読者が一目見て、その国をイメージできる色
素材はその国らしさと同時に、その物にイメージカラーを配色できることが条件となる。石造りの遺跡などは、たとえ有名でも、どちらかといえばメインの素材にはなりにくい。逆に素材になりやすいのは、伝統的な美術工芸品や建築物、地域固有の動植物などであろう。
●4月号のデザイン過程
「世界の色シリーズ」第1回目の4月号の国は中国を、素材は「福」の文字を逆さにした飾り物「倒福」を、色は赤を選んだ。
中国は日本のすぐ隣にあり、その文化が日本人によく知られていることが選択の理由である。素材の「倒福」は、日本でも中華料理店などで時折り見かける。
中国では旧正月にこの「倒福」を飾る風習を持つ。ピン音は「dào fú(ダオ・フー)」。「倒」と「到」のピン音が同じであることから、「到福(福が来る)」を「倒福(逆さまの福)」に掛けているとのことだ。我が家に福運が到来するようにとの願いが込められている。
形がはっきりしてインパクトがあるし、縁起物であるから、新年度のスタートにふさわしいと考えた。「倒福」の文字の周りには、牡丹を蔓草状に配した。牡丹は中国を代表する花の一つであり、中国の伝統工芸品によく登場する。開花期が4月下旬頃からなので、時季的にもマッチしていた。背景には、これも福運のシンボルとされている竜の柄をあしらった。
色については、「倒福」は赤い紙に書かれるものなので、すんなり決まった。中国人は赤をめでたい色としてお祝いの飾りなどに好んでよく使う。赤のほかに、黄色、ピンクなどを散りばめ、春到来の華やかさを演出した。
「世界の色シリーズ」は2014年3月号まで続く。『JAGAT info』読者の皆様に世界各国の魅力をお伝えし、最新号がお手元に届いた一瞬を楽しんでいただければ幸いである。
(JAGAT 研究調査部 石島 暁子)