本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。
市場の成熟化が進んでくるとこれまで全く関係がないと思っていた業界と争うことにもなる。異業種という概念もなくなってくるかもしれない。
■異業種との競争が必要になる
『異業種競争戦略』(内田和成著、2009年刊)を読んだ。帯には、「あなたの事業に明日はあるか?」と赤字で刺激的な文言が書かれている。
そして「"異業種格闘技"が始まった」とある。そもそもこの本を執筆するにあたり、タイトルを異業種格闘技にしようとしたら、それでは本が売れないので、出版社から異業種競争戦略にしてくれと言われたそうである。
著者の内田和成氏は日本航空を経て、ボストン・コンサルティング・グループ日本代表に就任。現在は早稲田大学ビジネススクールの教授である。専門は、競争戦略論やリーダーシップ論で、企業のリーダーシップ・トレーニングも行っている。
本書が発刊されたのは、2009年11月であり、その時点では、世の中はすでにリーマン・ショックを経験している。おそらく黙っていても仕事が入ってきた時代はもう来ない。それはどんな産業を見渡しても同じことが言えるだろう。
「あなたの事業も、いまのままの形態で将来も安泰だと言い切れますか」とプロローグの冒頭に書いてある。
従来の競争戦略は同じ業界内での出来事だったので、相手の出方など戦い方がある程度わかっていた。ところが、相手が異業種になるとビジネスの仕組みが違う、儲けるポイントが違う、業界のルールが違うなど戦略を変えていかなくてはならない。
本書では、従来のバリューチェーンの上位概念ともいうべき新しいコンセプトとしての「事業連鎖」を取り上げている。製品や事業をまたがるより広範な事業間 のかかわりを指す「事業連鎖」を正しくとらえることで、事業再構築や業界融合などの動き、そこから予見される脅威やビジネスチャンスをとらえることができ るとしている。
■顧客志向の重要性
マーケティングの教科書的なものに、「近視眼的マーケティング(marketing myopia)」がある。もはや古典ともいえるこの概念は、セオドア・レビットが1960年にハーバード・ビジネス・レビュー「マーケティング近視眼」の中で解説したものである。
アメリカの鉄道会社と映画会社の衰退した原因を解説したとても有名な話でご存知の方も多いだろう。鉄道会社がドメインを輸送事業でなく鉄道事業とし、映画 会社がエンタテイメント産業ではなく、映画を制作する産業と勘違いしてしまったため衰退した。つまり自社のドメインを顧客視点で考えずに、自社の都合や製 品開発などに重点を置いた結果であるとしている。
またレビットは、そもそも成長産業といったものは存在しないと言っており、その逆にあらゆる産業は衰退するということを述べている。今でも十分に通用する内容で、イノベーションや個々の企業が持たなくてはいけない戦略の重要さが書かれている。
ただし、この話は1960年のこと。企業が成長する条件のひとつに人口増加があった。当時人口は増え続け、生活は豊かになっていき、ある意味勝手に市場が大きくなっていったのである。
人口減少が始まっている現在、あらゆる産業が成熟化してくるのは自然の理にかなっている。人口減少時代にマッチした戦略とは何かを考える必要が出てくる。
市場が成熟してくると何が起きるか。――残されたパイを巡って顧客の奪い合いが始まるのである。内田氏は「それは、業界という枠組みを越えた戦い――"異業種格闘技"であり、ビジネスモデルの戦いである」と述べている。
今後どんどん新しい競争やビジネスモデルが生まれてくるだろう。そのスピードもこれまで以上に増してくるに違いない。どこから何が飛び出してくるのか、見極めるためにも準備しておく必要がある。
2011年のJAGAT大会で特別講演をお願いした越純一郎氏は、「できることではなく、勝てることをせよ」と言われた。会社や業界の方向性が「わかる」ことと、実際に結果を出していくこととは違う。 どう戦っていけばよいのか、内田氏の『異業種競争戦略』は、企業が現在とは違う市場に出て行くときの参考になると思う。
******************************************
■関連イベント「JAGAT大会2013 」
2013年6月14日(金)東京コンファレンスセンター・品川にて開催!
特別講演には 内田和成氏を招聘し、異業種競争戦略について、語っていただきます。
どうぞご期待ください。