本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。
会員誌『JAGAT info』の表紙デザインを通じて、デザインと印刷の可能性について考える。今回は「日本の伝統色」を現代のデザインに取り入れる効果について。
●日本の伝統色の多彩さと楽しさ
『JAGAT info』の表紙は、印刷の普及・啓蒙の観点も含めデザインを考えている。現在は、印刷の重要な要素のひとつであり、様々な事物のイメージを形作る大切な要素のひとつでもある「色」を重視してデザインしている。
2012年6月号から2013年3月号まで取り上げた「日本の伝統色」は、現代の文化、私たちの暮らしの中に当たり前のように息づいているものだ。あまりに身近すぎて、伝統色の種類やその多様さ、個々の伝統色の由来については、印刷業界の中でも、知っているようで意外に知られていないのではないだろうか。
日本の伝統色は豊かな四季の変化を反映した多彩さがあり、日本人の色に対する感性の繊細さ、鋭敏さを含んでいる。また、その色名は風雅で美しい。色名の由来は、季節の風情、自然の意匠のほか、工芸・染色・芸能にまつわるものなど実に多彩で、日本の歴史や雅びな文化を改めて私たちに教えてくれる。
●日本の伝統色は必要な数だけある
日本には豊かな四季があり、季節には季節にふさわしい色と柄がある。そこで『JAGAT info』の表紙では、日本の伝統色の中から発行月の季節感に合った色を選びテーマ色とした。紙面に変化をもたせるため、テーマ色の他に、似た色相の中から濃度、彩度の違う色を数種選んで配色した。また、テーマ色に合う日本の事物や伝統文様と、イメージ写真で構成し、デザインに使用した色名も表記した。
●日本の伝統色シリーズ全9回
各号のテーマ色とデザインのポイントは以下の通り。
6月:露草色(つゆくさいろ)
青系統。色のオビに紗綾形文様を重ねる。(写真:ツユクサ)
7月:常磐色(ときわいろ)
緑系統。長方形のマス目に色を配置。(写真:青田の風景)
8月:秘色色(ひそくいろ)
寒色系の淡色。斜め格子から海と空が覗く構成。(写真:砂浜と海)
9月:紫苑色(しおんいろ)
紫系統。縞と矢絣文様を交互に配置。(写真:キキョウ、マツムシソウ、リンドウ)
10月:茜色(あかねいろ)
赤系統。扇型に流水文様をうっすらと重ねる。(写真:モミジ)
11月:櫨染(はじぞめ)
黄色~茶色系統。寄木細工をイメージする六角形の組み合わせ。(写真:クヌギのドングリ)
12月:紺青(こんじょう)
紺色系統。大小の雪輪文様に青海波(せいがいは)、七宝、絞り文様。(写真:囲炉裏)
2月:胡粉色(ごふんいろ)
暖色系の淡色。格子に小紋と梅文様。(写真:紅梅と蝋梅)
3月:萌黄(もえぎ)
薄い黄緑系統。エ霞模様と亀甲、籠目文様など。(写真:フキノトウ)
このように一つのテーマに沿ったデザインに取り組むと、配色の拠り所ができてくる。日本の伝統色は、様々な事物に対する色のイメージを日本的な観点で表した見本であり、日本人の色に対する感覚の基準といえる。
●日本の伝統色を効果的に使って表現の幅を広げる
色をデザインする際、配色の拠り所を多く持てば持つほど、より多くの人に共感を与えるデザインが可能となる。現代においても、日本の伝統色を上手にデザインに取り入れることは、季節感の演出や、上質さ、エコロジー、和の趣などの訴求に極めて有効だ。
9回シリーズでは日本の伝統色の魅力をすべて伝えきれるわけではないが、日本の伝統文化を現代に生かすデザインのヒントを少しでも感じとっていただければ幸いである。2013年度から「世界の色」シリーズに移行した。これからも『JAGAT info』の表紙では印刷とデザイン、色の楽しさとその奥深さを伝えていく。
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