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コミック用DTP制作システムから電子コミック向け制作、EPUB制作へ
国内の出版市場において、コミックは大きな存在感を持っている。
電子コミックの制作・流通とEPUBオーサリング技術について、共同印刷コンテンツビジネス開発グループの多田直氏、富士フイルムの三上氏、山崎氏に話を聞いた。
週刊少年ジャンプはピーク時に毎週630万部を発行していたが、現在は300万部前後と言われている。依然として、国内最多の発行部数の週刊誌である。
その製版印刷は共同印刷が担当している。以前のマンガ誌の製版は、ネーム(吹き出し)部分の写植を原画の上に貼り込み、スキャンする方式が続いていた。DTPが主流になっても、なかなか写植から移行することができなかった。これは、入稿から出校まで2時間半という極端な短納期や、DTP上でコミック特有の書体バリエーションが利用できないことが原因だった。
コミック製版をDTP化することで、組版品質の標準化や印刷向けの再加工性の向上、電子書籍向けの再加工性の向上、作業効率化を図ることができる。
そのため共同印刷では、原画を読み込み、Adobe InDesign上でネームの組版を行うコミック製版システム「Comic Packer 」を開発し、2003年から実用化した。単行本用に文字サイズや判型を一括変換する機能もある。書体の問題もフォントメーカーによって対応することができた。
週刊少年ジャンプも、2010年までにDTP化に完全移行することができた。
電子コミックのデータ制作は、「Comic Packer」からEPUBなどの電子書籍フォーマットにオーサリングする流れとなる。「Comic Packer」上の元データは、再編集・再利用のために画像・テキストごとにレイヤー化されており、おのおのの条件に合せて最適化し、レイヤー統合を行う。
EPUBフォーマットは、現状では出版社ごとに仕様が指定されており、一部異なる部分がある。
コミック用の固定レイアウトEPUBについて、2012年11月にデジタルコミック協議会によって、ガイドラインが発表された。SVGラッピング方式、画像直リンク、フォルダ名ファイル名、ページ画像の縦横サイズなどが規定された。実質的には仕様書ほど厳密ではなく、自由度が大きいため、制作・印刷会社から見ると出版社ごとの仕様として対応せざるを得ない。
コミック用の固定レイアウトEPUBのオーサリングは以下のような流れである。
書誌データ、PDFやTIFFなどのページ画像、テンプレートの3点を準備する。オーサリングツール上で指示すると、メタ情報の抽出、画像修正、サムネイルの作成、EPUBへの再パッケージなどが、自動で行われる。その後、EPUBチェックをかける。最終的にはいくつかのリーダーとデバイス上で目視チェックも行う。
今後の課題として、リーディングシステムの改善や書誌データ、IDの統一、制作仕様の統一などを期待している。
富士フイルムは、コミック向けの固定レイアウトEPUBを制作するツール、「GT-Epub Author for Fixed Layout 」を開発した。
コミックの電子化ツールには、誰でも簡単に一定の品質のEPUBデータを制作できることが求められる。
画像サイズや解像度など本来は細かい設定が可能だが、必要最小限の項目を設定するとソフト側で最適な設定ができるように工夫している。モアレが出ないような特殊なパラメータ設定も自動化されており、最適な画質、最適な容量をコントロールすることができる。
実際の操作は、次のように行う。プロジェクトを定義して、画像を指定する。右開きか左開きか、表紙か本文か奥付か、目次はテキスト形式かクリッカブル形式か、目標となる容量、例えば30MB以下、40MB以下などと設定すると、それに合せて最適化される。
プロジェクトファイルとは中間ファイルであり、解像度やデータ容量の設定に応じていつでもやり直すことができる。固定レイアウトEPUBに特化したツールとなっており、リフローテキスト型には対応していない。
このツールは、医学論文など症例写真の画像が極端に多い書籍を電子化する際にも、有効だろう。