クロスメディア考現学(4)東京国際ブックフェア雑感 ~クロスメディアの観点から~
掲載日: 2013年07月12日
「クロスメディア」というキーワードから想起されるビジネスやサービスの「現在(いま)」を毎月再考していく。
クロスメディア考現学(4)
東京国際ブックフェア雑感~クロスメディアの観点から~
2013年7月3日から7月6日の4日間、東京ビッグサイトで
東京国際ブックフェア が開催されました。同時開催された
電子出版EXPO と合わせて「クロスメディア」という観点からひときわ目をひいた展示、セミナーなどをリポートします。
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通勤時間と読書とは親和性が高い。電車の中吊り広告に出版物、特に雑誌の中吊り広告は今でも多い。
凸版印刷 のブースで展示されていた「中吊アプリ」は、電車で、雑誌のコンテンツを記事単位で購入できるアプリ(開発中)である。スマホやタブレットにインストールしたこの「中吊アプリ」でデジタル化された記事を購入できるだけでなく、紙版の雑誌が売っている近くの書店を地図上にプロットするという集客への導線も用意されているところが興味深かった。
同じく凸版印刷グループのBookLiveのブースでは、画像マッチング技術で「現実世界」と「電子書籍」を繋ぐ画像認識アプリ「BookLive!カメラ(仮)」も読者と電子書籍とをつなぐ今までにない新しいアプリケーションの試みである。スマートフォンやタブレットのカメラで、本の表紙やポスターなどに印刷された画像や屋内外の建物やランドマークを撮影して読み込ませると、関連する電子書籍が表示されるというアプリである。例えばスカイツリーを撮影するとスカイツリーに関する電子書籍が表示されるという具合である。
大日本印刷 のブースでは、書店で販売することを想定したhonto pocketという読書専用端末が展示された。コンテンツがあらかじめインストールされた5インチサイズの電子書籍端末。単4電池2本で駆動し1日30分の読書で1年もつという。文豪の作品集やライトノベルなどのコンテンツを想定しており、ターゲットは電子書籍ビギナー。リアルな書店で電子書籍も販売していくというアイデアや試みには期待している。書店のヘビーユーザーは電子書籍のヘビーユーザーにも変貌してくれる可能性が高いからだ。
コンテンツがデジタルされれば目で読むだけではなく、音声で読み上げることも可能になる。視覚に障害のある人や弱視の方にとっては、紙に印刷されたままの出版物ではコンテンツにアクセスすることが困難ですが、いわば耳で読むことができるようになる。
こうした電子書籍の特性を「アクセシビリティ」と呼ぶが、
NTTクラルティ では、音声合成(TTS:Text To Speech)付きの電子出版「おともじん」(しゃべるEPUB)の制作を通じ、電子出版のアクセシビリティへの取り組みが紹介されていた。視覚障害者だけでなく、いわゆる健常者にとっても満員電車の中、ジョギングをしながら、料理をしながら、といった聴覚による読書、耳から情報を得る新しい読書のライフスタイルを提案している。
モリサワ のブースでは、電子雑誌コンテンツ制作ソフト「MCmagazine」を使った開発中の展示として電子雑誌のコンテンツを音声合成で読上げるデモがあった。読み上げ速度も調整でき、男性・女性の声も選択できる。電子雑誌を読み上げるというサービスによって、雑誌のコンテンツの魅力をより認知させることができるのではないかと期待が膨らんだ。
クロスメディアという概念に私が抱いているものとして、出版社や書き手から読者に向けて一方通行的にコンテンツを流通するというのではなく、読者が書き手になる、SNSなどを活用して読者の集合体がプロモーション機能を果たすというものがある。
かつてもケータイ小説もそのような流れではあったが、数年で廃れてしまった。ところがアマゾンのサービスであるKDP(Kindle Direct Publishing)が日本でもサービスを開始したことによってセルフパブリッシングが日本でも大きく注目されるようになった。
中でもトップランナーとして一躍時の人となったのが藤井太洋氏である。
2012年に個人出版した「Gene Mapper」がBest of Kindle本2012の文芸・小説部門のトップとなり、2013年には早川書房より『Gene Mapper -full build-』が刊行され、作家として商業デビューを果たした藤井氏は今年も東京国際ブックフェア、電子出版EXPOの会期中に開催されたセミナー、イベントで最も多く登壇されていた。
私も「セルフパブリッシングの現場から~SNSとネットの特性を生かした持続可能なプロモーション」と題されたセミナーを受講したが、DTPやICT分野全般の知見が深い藤井氏による作品の制作手法、工程、流通チャネルの設定、ブログ、フェイスブック、ツイッターなどを巧みに駆使したプロモーション方法などはまさに目からウロコであった。藤井氏はこうしたノウハウをブログやセミナーなどで惜しげも無く披露している。こうしたオープンな姿勢にも全く新しい出版の潮流が生まれてきていることを感じる。
藤井太洋 Gene Mapper制作ブログ
http://genemapper.info/category/gene-mapper-blog/
(次回は7月30日 予定)
一般社団法人 電子出版制作・流通協議会
池田 敬二
1994年東京都立大学人文学部卒業後、大日本印刷に入社。入社以来、出版印刷の営業、企画部門を歴任。2010年より一般社団法人 電子出版制作・流通協議会 事務局に勤務。趣味は弾き語り(Gibson J-45)と空手。JAGAT認証クロスメディアエキスパート。日本電子出版協会クロスメディア研究委員会委員長。JPM認証プロモーショナルマーケター。
Twitter : @spring41
Facebook : https://www.facebook.com/keiji.ikeda
クロスメディア考現学 (1) メディアビジネス設計で重要なポイント
クロスメディア考現学 (2) 3Dプリンターとオープンイノベーション
クロスメディア考現学 (3)イーシングルでクロスメディア読書を
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