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Web制作と同時にSEO対策も受注できればクライアントとの関係性はより強固になる。必要なのは基礎的な知識とコツコツとした作業だ。
クロスメディア研究会では、SEOツールの開発・販売を手掛けるGinzamarkets 清水昌浩氏に検索エンジン対策の重要性や最近の傾向について話を伺った。
人が何か商品を買うとき、事前にインターネットで検索することは当たり前になっている。情報源も公式サイト、レビューサイト、ネイバーまとめ、Facebookとさまざまだ。そのような消費者の購買行動において、グーグルは2011年に「Zero Moment of Truth(ZMOT)」という概念を提唱した。これは簡単に言うと、「お店に行って商品を買うときには、すでに検索・比較して商品の選択が終わっている」という状態である。
今まで言われていたような、「消費者の意思決定の瞬間は店頭である」という考え方が当てはまらなくなってきたということであり、検索されたときに「見つけてもらう」ことの重要性が過去にないほどに高まっているということでもある。
清水氏が国内各業界の大手6社のWebサイトを調べたところ、検索エンジン経由でサイトを訪問するユーザーの割合は4割強であった。検索エンジンでは広告エリア以外の自然検索エリア(純粋な検索結果が表示される部分)をクリックする比率は8割から9割と言われているため、(検索エンジン比率4割×8割で、)全体のトラフィックの3割が自然検索から来ているということになる。これだけのボリュームがあるため、自然検索の対策を行うことは重要である。
企業における検索エンジン対策は、SEO専門の会社に丸投げするのではなく、社内担当者による内製化が進んでいる傾向にある。Googleが有料でのリンク購入や中身の薄いコンテンツばかりのWebサイトに対してペナルティを与えるようになったためコンテンツ自体の重要度が増したことも要因である。
しかし自社主導でSEOを行おうとしても、実際には何をすればいいのかわからないという企業も多い。そこで、コンテンツ制作やページ修正に携わる立場のWeb制作会社がSEO関連の作業も受注できる可能性が出てくる。制作会社に求められることは、Googleが公開しているスターターガイド 程度の基礎的なSEOの知識で十分である。
SEOで成果をあげるためには、現在のページに手を加えるか、新たにコンテンツを作るかである。施策を行うにあたってはキーワードや数字を意識することが欠かせない。特にキーワード選定はとても大事で、SEOのコンサルティング会社がプロジェクトを実施するときにキーワード調査に労力の半分以上をかけるという話も聞くほどだ。
たとえば、「ジーンズ」というキーワードで検索するとエドウィン、ビッグジョン、といったジーンズメーカーのWebサイトがヒットする。しかし「ジーンズ ヴィンテージ」というキーワードで検索すると、価格com、ヤフー知恵袋、all aboutといったWebサイトが上位に表示され、ジーンズメーカーは上位に表示されない。なぜかというと、ジーンズメーカーでは「デニム」という表現を使うことが多いためである。しかし、買う側は「ジーンズ」という表現で検索することが多いため、複数のキーワードになったときに他のサイトが上位にきてしまう。
キーワード設定においては、クライアント側の使いたい表現ではなく、消費者が検索しそうなコトバを設定することが重要である。前述のようなコトバのほかにも、アルファベット表記のメーカー名をカタカナで併記するだけでも検索結果に影響が出る。スマホだとアルファベットは入力しにくいのでカタカナ検索が増えるといわれており、大手コマースサイトでは、対策として英語表記の横に【】でカタカナを入れたりしている。
そのような言葉の感覚はメーカー側では逆には気づかないことが多い。業界内部の専門用語を使いがちで、一般の人が入力しやすい言葉が何かがわからない。ここは制作会社など外部の立場の人が入ることで効果が出やすい箇所でもある。
次に大事なのが、数字を意識することだ。クライアントのサイト順位ばかりではなく、競合サイトの順位も把握したほうが良い。週1回自分のサイトだけ見ているのと、毎日自分のサイトと競合サイトの順位を取得して比較している場合では数字の見え方が違い、改善点も見つけやすい。計測せずに改善はできない。
あるセミナーでweb担当者に質問したところ、競合サイトの順位を定期的にチェックしていたのは1~2割程度だった。反対の言い方をすれば、制作会社側でそれができればクライアントに新しい体験を提供できるということである。
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清水氏が既にSEO対策を受注している制作会社に話を聞いたところ、「Webサイトを制作して終わり、というビジネスでは今後生き残れない」、「サイト運用予算は安いがSEOにはお金が払われるため、その予算を取りに行く」、という声であった。印刷会社にとってもこの傾向は当てはまるはずだ。地道な作業とクライアントのビジネスに対する理解が求められるSEO施策は印刷業界にとって可能性がある領域であろう。
(JAGAT 研究調査部 中狭亜矢)